賃貸経営・管理において、特にリスクが高いトラブルの一つが家賃滞納です。家賃は物件オーナーや管理会社の収益に直結し、物件の管理にも大きな影響を与えるため、滞納が発生した際には迅速な対応が求められます。
ただし、家賃滞納への対応を誤ると、問題がさらに複雑化する恐れがあります。そこで今回は、家賃滞納の主な原因や、適切な対応策・予防策、さらに督促時の注意点について詳しく解説します。
家賃滞納が発生する原因
家賃滞納が発生する原因としては、以下のものが挙げられます。
- うっかりミスによる支払い忘れ
- 事故・事件に巻き込まれた
- 金銭的に困っている
- 家賃を支払う意思がない
まずは各原因について見ていきましょう。
うっかりミスによる支払い忘れ
入居者がうっかり支払いを忘れてしまうケースは、意外と少なくありません。例えば、銀行振込で支払う場合、失念していて入金期限を過ぎてしまうことや、残高が不足していて引き落としができず、滞納となってしまうなどの状況です。
入金遅れや残高不足の理由はさまざまで、必ずしも入居者が金銭的に困っているとは限りません。例えば、家族の不幸で急な出費があったり、仕事が忙しくて入金を忘れてしまったりすることも考えられます。
事故・事件に巻き込まれた
入居者が事故や事件に巻き込まれ、やむを得ず家賃を滞納してしまうこともあります。例えば、急病や事故により入院し、家賃を振り込むことができなくなる場合などです。また、本人ではなく家族が事故や事件に巻き込まれたために実家に戻り、家賃の支払いを忘れてしまうケースも考えられます。
さらに、事故や事件の影響で働けず、収入がなくなることも考えられます。業務中のケガや病気であれば労災保険が適用され、業務外の場合は傷病手当を受け取ることができますが、申請から支給までに1カ月以上かかることがあり、その間の家賃を支払う資金が不足してしまう可能性があります。
金銭的に困っている
金銭的な問題で家賃を払えないケースもあります。たとえ今は問題がなくても、勤務先の業績悪化や経済的な影響で給料が減り、生活が厳しくなることも考えられます。また、急な出費で一時的にお金に困る場合もあるでしょう。
このような状況にある入居者には、生活保護などの公的支援制度を利用する方法や、家賃の負担が少ない物件への住み替えを提案することが重要です。
家賃を支払う意思がない
家賃滞納者の中には、家賃を支払う意思が全くなく、支払いを怠ることに対して特に悪いと感じていない人も稀にいます。そのような場合、居留守を使われたり、連絡が取れなくなったりすることがあり、対応が非常に難しくなることが多いです。
賃貸借契約は、住居を提供する対価として家賃を支払うという契約です。支払い義務があるにもかかわらず故意に滞納し続ける場合、強制退去の手続きを検討する必要があるでしょう。
家賃滞納が発生した場合に賃貸人が取るべき対応策
賃貸人にとって家賃は大事な収入源であるため、滞納している入居者がいれば速やかに対応する必要があります。賃貸人が取るべき主な対応は以下のとおりです。
- 貸借人に催告する
- 連帯保証人または家賃保証会社に問い合わせる
- 内容証明郵便を使って督促状を送る
それぞれの対応策について解説します。
まずは貸借人に催告する
まず、家賃を滞納している賃借人に対して、家賃の支払いを催促します。この催促によって、滞納の理由や賃借人が家賃を支払う意志があるかどうかを確認できます。通常、管理会社が催促を行うため、オーナー自身が直接対応する必要はありません。
催促の手段としては、電話、訪問、書面の3つがあります。まずは電話でアプローチを試みましょう。支払い忘れや一時的な金銭不足が原因であれば、賃借人が迅速に対応してくれることが多いです。
ただし、電話に出ないことや、支払いの意思を示していても滞納が続く場合もあります。その際は、訪問を検討しましょう。
もし電話や訪問で支払いの意思を確認できなかった場合、書面による通知が次のステップとなります。内容証明郵便で送付することで催促した事実を証拠として残せるため、裁判になった場合にも有効です。
連帯保証人または家賃保証会社に問い合わせる
催告をしても家賃の支払い意思が見られない場合や、そもそも支払い能力がない場合は、連帯保証人や家賃保証会社に連絡します。通常、これも管理会社が対応します。
連帯保証人は、賃借人が家賃を支払えない際に代わりに支払う役割を担うもので、連帯保証人を通じて賃借人に支払いを促し、今後の滞納を防ぐことも重要です。
また、賃借人が家賃保証会社に加入している場合は、連絡をすれば家賃保証会社がすぐに賃借人に代わって滞納家賃を支払います。その後、家賃保証会社が賃借人に対して支払った家賃を請求する形になります。
内容証明郵便を使って督促状を送る
賃借人や連帯保証人が家賃の支払いに応じない場合、最終的な警告として督促状を送ります。督促状は、家賃の滞納が1週間以上続いた時点を目安に送付します。その際、管理会社を通じて内容証明郵便を利用すると、後の法的手続きでも有利になります。なぜなら、内容証明郵便は、送付した書面の内容と相手が受け取った事実を郵便局が証明するため、賃借人に対して適切に督促を行った証拠として裁判などで用いることができるからです。
督促状には、以下の基本的な事項を記載します。
- 表題
- 通知内容
- 法的手段の告知
- 日付
- 賃借人の住所と氏名
- 自社の住所と社名
- 代表取締役名
また、賃借人が支払いに応じない場合の法的措置についても明記しておくとよいでしょう。
家賃滞納への対応を効率的に行いたい場合は、『いい生活賃貸管理クラウド』の利用がおすすめです。このクラウドサービスでは、滞納の有無や期間を色分けで視覚的に把握できるため、滞納が発生した際にも迅速に対応策を講じることが可能です。
家賃滞納で法的措置を取る場合の流れ
督促状を送っても家賃を滞納し続ける場合、法的措置を取ることになります。法的措置を取る流れは以下のとおりです。
- 支払督促手続きをする
- 少額訴訟を起こす
- 物件の明け渡しを求める民事訴訟を起こす
法的措置を取る際の詳しい流れを見ていきましょう。
1.支払督促手続きをする
賃借人に支払い能力があることが確認できている場合は、支払督促の手続きを行います。この手続きでは、簡易裁判所に申し立てを行い、裁判所から賃借人に対して書面による支払い督促が送られます。この督促は、物件オーナーや管理会社からの請求よりも強い心理的なプレッシャーを与えることができ、裁判に至る前に問題を解決できる可能性があります。
支払督促の手続きは裁判を行わないため、比較的少ない費用で問題を解決できる点がメリットです。また、賃借人に支払い能力がある場合に限り、最終的には財産の差し押さえが行われる可能性もあります。
支払督促の申し立てには手数料や郵送料が必要です。手数料は請求額に応じて変動し、例えば10万円までの請求であれば500円、それ以降は請求額が10万円増えるごとに500円ずつ加算されます。
2.少額訴訟を起こす
請求金額が60万円以下の場合、少額訴訟を利用できます。この手続きでは、原則として審理が1回で済むため、迅速に問題を解決できる可能性があります。
少額訴訟でも強制執行による差し押さえが可能ですが、相手に支払い能力がない場合は支払督促と同様に効果が得られません。また、相手が通常の民事訴訟を希望した場合には、民事訴訟に移行して解決を図る必要があります。
申し立てには手数料と切手代が必要です。手数料は請求額に応じて異なり、60万円までの範囲で10万円単位ごとに1,000円が加算されます。切手代は裁判所とのやり取りの回数により異なりますが、一般的には5,000円前後です。勝訴した場合、これらの訴訟費用を相手に負担させることが可能です。
3.物件の明け渡しを求める民事訴訟を起こす
民事訴訟では、家賃の回収と同時に物件の明け渡しを求めることができます。これは、支払い能力がない、または支払いの意思がない場合に取るべき最終手段として有効です。
訴訟で勝訴するためには、証人や証拠書類をしっかりと準備することが重要です。支払督促や少額訴訟に比べて、より多くの労力と専門知識が必要になることが多いため、弁護士に依頼することをおすすめします。
また、訴訟には費用や時間がかかることにも注意が必要です。物件の明け渡しを求める場合、決着までに1年以上かかることもあり、費用は印紙手数料や予納金、郵便切手代、弁護士費用、そして強制退去の費用など、合計で数十万円から100万円以上になることがあります。
賃貸人が家賃滞納の督促をする際に注意したいNG行為
賃貸人が賃借人に家賃滞納の督促を行う場合、以下の点に注意が必要です。
- 21時~翌8時の時間帯に連絡・訪問をする
- 家賃を滞納している事実を本人以外に公開する
- 物件に入室できなくさせる
- 物件内にある物を勝手に処分する
- 取り立てるために長時間滞納者の部屋に居座る
- 連帯保証人以外の第三者に弁済を求める
家賃滞納者であっても、上記のような行為を行うと賃貸人が不利になる可能性があります。それぞれ解説します。
21時~翌8時の時間帯に連絡・訪問をする
21時〜翌朝8時までの時間帯に滞納者に連絡したり、訪問したりする行為は、貸金業法に違反する可能性があるため注意が必要です。貸金業法第21条では、内閣府令で定められた「社会通念に照らし不適当と認められる時間帯」に催促を行うことを禁止しています。
この時間帯に督促を行うと、滞納者だけでなく他の入居者にも迷惑がかかる恐れがあります。禁止されるのは電話や訪問だけでなくFAXや書面などの手段も含まれるため、督促は常識的な時間に行うようにしましょう。
家賃を滞納している事実を本人以外に公開する
家賃滞納の事実を本人以外に知らせるような督促方法は、法律で禁止されています。例えば、貼り紙や看板を使って滞納を公にすることは違法です。
これは賃金業法第21条で明確に禁止されている行為です。そのため、督促は滞納者本人に対してのみ個別に行う必要があります。
物件に入室できなくさせる
賃料の滞納者に対して、物件への入室を制限する行為は法律で禁止されています。これは、相手の意思に反して実力行使を行うことを禁じる「自力救済の禁止の原則」に基づいています。
例えば、無断で鍵を交換して滞納者が部屋に入れないようにする行為は、住居侵入罪や不動産侵奪罪に該当する可能性があります。また、このような行為は違法な追い出しとみなされ、滞納者から損害賠償を請求されるリスクもあります。
取り立てるために長時間滞納者の部屋に居座る
滞納者に対して取り立てを行う際、部屋やその前で長時間居座ることも避けましょう。たとえ相手が滞納していたとしても、その私生活を妨害する行為は認められていません。
賃金業法第21条では、相手が退去を求めたにもかかわらず居座り続けることを禁止しています。長時間の居座りは、督促手段として合理性や適切さが欠けているとみなされる可能性があり、不退去罪に該当する場合もあります。その結果、滞納者から慰謝料を請求されるリスクもあるため、注意が必要です。
連帯保証人以外の第三者に弁済を求める
滞納者に支払い能力がない、または支払う意思がない場合、連帯保証人に弁済を求めることが必要です。しかし、連帯保証人以外の第三者に弁済を求めることはできません。
賃金業法第21条では、滞納者以外の人物に弁済を要求することが禁止されています。たとえ連帯保証人以外の第三者が弁済に応じたとしても、その後、第三者と賃借人の間でトラブルが発生し、その問題に巻き込まれる可能性があるため十分な注意が必要です。
家賃滞納を未然に防ぐための対策
家賃滞納の対応を適切に行うことの重要性は言うまでもありませんが、そもそも滞納が発生しないような工夫が大切です。未然防止策は以下のとおりとなります。
- 入居者審査は慎重に行う
- 自動引き落としにする
- 連帯保証人または家賃保証会社をつける
- 家賃の支払い日・翌日に必ず入金されているか確認する
ここからは、家賃滞納を防ぐための対策方法について解説します。
入居者審査は慎重に行う
家賃滞納のリスクを避けるためには、入居者の審査は慎重に行う必要があります。優良な入居者かどうかを判断するために、特に次のポイントを確認しましょう。
- 支払い能力の有無
- 連帯保証人の支払い能力の有無か
- 入居形態(単身なのか、同棲・ルームシェアなのか)
- 入居者の人柄
書類や電話だけでなく、対面やオンラインで相手の顔を見て審査することが理想的です。また、管理会社に審査を委託する際は、厳格な入居者審査を実施している会社を選ぶことが重要です。
自動引き落としにする
滞納を防ぐためには、家賃の支払い方法を自動引き落としにすることも効果的です。銀行振込の場合、入金を忘れてしまうことがありますが、自動引き落としにすれば支払う側が手動で振り込む必要がありません。その結果、うっかりミスによる滞納を避けられるでしょう。
連帯保証人または家賃保証会社をつける
賃貸借契約を締結する際には、入居者に連帯保証人や家賃保証会社をつけることを条件にしましょう。これにより、入居者が家賃を支払えなくなった場合でも、代わりに連帯保証人や家賃保証会社が家賃を立て替えることで、オーナーの収入が確保されます。
特に、学生や生活保護受給者など、支払い能力に不安がある入居者に対しては連帯保証人をつけることが推奨されます。親族がすでに亡くなっているなど、連帯保証人をつけられない事情がある場合は家賃保証会社の利用も検討してみてください。
家賃の支払い日・翌日に必ず入金されているか確認する
家賃の支払い日やその翌日には、必ず入金の確認を行うことも重要です。もしも1日でも支払いが遅れていた場合、すぐに督促を行いましょう。
早期に督促を行うことで、入居者は「少しでも支払いが遅れるとすぐに注意を受ける」と意識するようになり、滞納を避ける気持ちが強まります。
また、入金管理を漏れなく効率的に行うためには、システムを活用するのも効果的です。例えば、『いい生活賃貸管理クラウド』を利用すれば、振り込みや現金入金などの入出金予定を一元管理でき、滞納状況を簡単に把握できます。また、未入金が発生した際の督促業務もシステム上で効率的に行うことが可能です
家賃滞納に対して適切な対応策を講じよう
入居者が家賃を滞納する理由には、うっかりしたミスや事故・事件などやむを得ない事情もあれば、支払う意思がない場合もあります。どちらのケースでも、物件オーナーや管理会社は滞納者に対して催告や督促を行い、必要に応じて法的措置を取ることが求められます。ただし、督促の方法によっては賃貸人側が不利になることもあるため、NG行為を避けつつ、適切な対応を心がけましょう。
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