
2027年4月、新リース会計基準がいよいよ強制適用されます。
この基準改正で特に大きな影響を受けるのが、オフィス・店舗・倉庫・社宅など、多くの不動産を「借りている」企業です。これまで毎月の賃料を費用処理するだけで済んでいた不動産賃貸借契約が、すべて貸借対照表に載ることになります。
「うちは不動産管理会社ではないから関係ない」と思っていませんか?実は、多店舗展開する小売・飲食チェーン、全国に拠点を持つサービス業、複数の事業所を賃借しているメーカーなど、不動産を「借りている」企業こそ、この基準改正の影響を最も強く受けます。
本記事では、借主(テナント)企業の経理・財務担当者の視点から、新リース会計基準の実務対応について解説します。
そもそも何が変わるのか ─ 30秒でわかる新基準の要点
新リース会計基準(企業会計基準第34号)は、2027年4月1日以降に開始する事業年度から強制適用されます。3月決算企業であれば、2028年3月期が最初の対象期間です。
最大の変更点はシンプルです。
これまで: 不動産の賃料 → 毎月「支払賃料」として費用処理するだけ
これから: 不動産の賃貸借契約 → 「使用権資産」と「リース負債」として貸借対照表に計上
つまり、オフィスの賃貸借契約1件1件が、資産と負債の管理対象になります。毎月の損益計算書にも、従来の「支払賃料」ではなく「減価償却費」と「支払利息」という2つの科目で計上されることになります。
これだけ聞くと「処理が変わるだけ」と思うかもしれませんが、実務はそう単純ではありません。
あなたの会社は大丈夫? ─ 影響が大きい企業の特徴
新リース会計基準の影響は、すべての企業に等しく降りかかるわけではありません。以下のような特徴を持つ企業ほど、対応の負荷が大きくなります。
影響が特に大きい企業
- 全国に店舗を展開している小売・飲食チェーン(数十〜数百件の賃貸借契約)
- 複数拠点にオフィス・営業所を持つ企業
- 社宅や寮を多数保有している企業
- 倉庫・物流拠点を賃借している企業
- フランチャイズ展開で多数の店舗物件を借りている企業
こうした企業では、対象となる賃貸借契約が数十件から数百件に上ることも珍しくありません。1件1件について使用権資産とリース負債を計算し、毎月の仕訳を作成する必要があるため、契約の数が多ければ多いほど、対応の工数は指数関数的に増えていきます。

一方で、オフィス1〜2拠点のみという企業であれば、影響は限定的です。自社の賃貸借契約がどれだけあるのかを棚卸しすることが、最初のステップになります。
借主企業が見落としがちな3つの落とし穴
新リース会計基準の解説記事は数多くありますが、その多くはリース会社や不動産管理会社向けの内容です。借主(テナント)企業の経理担当者が実務で直面する課題は、少し異なります。
落とし穴① フリーレント期間の扱い
不動産賃貸借契約では、入居当初に数ヶ月間の無償期間(フリーレント)が設定されることが珍しくありません。
新基準では、このフリーレント期間も含めてリース期間全体で使用権資産を按分する必要があります。「賃料が発生していない期間だから会計処理も不要」という訳にはいきません。
問題は、フリーレントの条件が契約書の条文にしか書かれていないことが多いという点です。月額賃料はシステムに入力されていても、フリーレント期間は紙の契約書を見ないとわからない ─ この状態では計算に着手すらできません。
落とし穴② 解約条件と違約金
不動産賃貸借契約には、中途解約に関する条項が含まれていることがほとんどです。「6ヶ月前に通知すれば解約可能」「解約時は残存期間の賃料の50%を違約金として支払う」といった条件は、リース期間の判定に直接影響します。
新基準では、解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」かどうかを判断し、その結果に基づいてリース期間を決定します。つまり、契約書に書かれた解約条件を1件1件確認し、「この物件は途中で解約するか、しないか」を判断しなければなりません。
この判断は経理部門だけでは完結しません。店舗開発部門や総務部門など、物件の利用方針を持っている部門との連携が必要になります。
落とし穴③ 契約更新・延長の判断
2年契約で2年ごとに更新している賃貸借契約は多いですが、新基準では「更新する合理的確実性がある場合は、更新後の期間もリース期間に含める」というルールがあります。
例えば、10年以上使い続けている本社オフィスを「2年契約だからリース期間は2年」と計上するのは、実態と乖離している可能性があります。この判断を誤ると、使用権資産とリース負債の金額が大幅に変わり、財務諸表に重大な影響を与えます。
これら3つの落とし穴に共通するのは、「契約書の中にしか情報がない」「経理部門だけでは判断できない」という点です。 だからこそ、契約情報をデジタルデータとして構造化し、関係部門と共有できる環境を整えることが、対応の大前提になります。
Excel管理の限界はどこで来るか ─ 契約50件を超えたら要注意
「うちはExcelで管理しているから大丈夫」という声をよく聞きます。確かに、契約数が少なければExcelでも対応は可能です。では、限界はどこにあるのでしょうか。
初回計算は、まだなんとかなる
新基準の適用初年度に、すべての契約について使用権資産とリース負債を計算する作業は、確かにExcelでも実行可能です。割引現在価値の計算式を組み、契約ごとにシートを作れば、数字は出せます。
問題は、その後の「継続運用」
新リース会計基準の本当の難しさは、初回計算ではなく、その後の継続的な運用にあります。

- 毎月、全契約について減価償却費と支払利息の仕訳を作成する
- 賃料が改定されるたびに、リース負債を再計算する
- 中途解約が発生したら、使用権資産の減損処理とリース負債の取り崩しを行う
- 契約更新のたびに、リース期間の再評価と再計算を行う
契約数が50件を超えてくると、これらの作業をExcelで毎月正確に行い続けることは、現実的に困難になります。1件の計算ミスが他の契約の集計にも波及し、修正に膨大な時間がかかるリスクがあります。
担当者が異動したら、引き継げない
もう一つのリスクは属人化です。複雑なExcelファイルを作成した担当者が異動や退職した場合、後任がそのファイルの計算ロジックを正確に理解して引き継ぐことは非常に困難です。新基準対応は一時的なプロジェクトではなく、毎月・毎年続く恒常業務です。属人化したExcel運用は、組織としてのリスクになります。
ERPを入れなくても対応できる「第三の選択肢」
システム化を検討しようとすると、多くの企業が2つの選択肢の間で悩みます。
選択肢A:大規模ERP(SAPなど)の導入・改修 → 数千万円〜の投資。機能は充実しているが、不動産賃貸借に特化した仕組みではなく、カスタマイズが必要
選択肢B:Excelで手作業を続ける → 初期コストはゼロだが、運用の負荷とミスのリスクが年々増大
実はもう一つ、この2つの間に位置する選択肢があります。
選択肢C:不動産特化の管理クラウド + リース計算エンジンの組み合わせ
不動産賃貸借契約のデータ管理に特化したクラウドシステムで契約情報を一元管理し、リース会計の計算と仕訳生成は専用の計算エンジンに任せる。両者をCSV連携で接続すれば、データ整備から仕訳出力までのプロセスが一貫して自動化されます。
この方式のメリットは以下の通りです。
- 不動産特有の契約条件(フリーレント・解約条件・礼金敷金など)に標準対応している
- ERP改修と比べて圧倒的に低コストで導入できる
- 既存の会計システムを変更せず、CSV取込で連携できる
- クラウドサービスのため、初期費用を抑えてスモールスタートが可能
「高額なERPは導入できないが、Excel管理ではいつか限界が来る」── そう感じている企業にとって、この第三の選択肢は検討に値するはずです。
今から始めるロードマップ ─ 2027年4月からの逆算
「まだ2年ある」と感じるかもしれませんが、対象契約の洗い出し・データ整備・システム導入・試算・運用テストを考えると、今から動き始めてちょうどいいスケジュールです。3月決算企業を例に、逆算スケジュールを示します。
フェーズ1:現状把握(今すぐ〜2026年末)
- 全賃貸借契約の棚卸し(対象契約のリストアップ)
- フリーレント・解約条件など、契約書に埋もれている情報の洗い出し
- 担当監査法人・会計士との方針すり合わせ(適用範囲の合意)
- システム選定の開始
フェーズ2:データ整備・システム導入(2026年中〜2027年初)
- 契約データのシステムへの移行・一元化
- 計算システムとのデータ連携テスト
- 全契約の使用権資産・リース負債の試算
フェーズ3:リハーサル(2027年初〜2027年3月)
- 仕訳データの会計システムへの取込テスト
- 月次運用フローの確立・担当者への教育
- 監査法人による検証
フェーズ4:本番適用(2027年4月〜)
- 期首残高の正式計上
- 月次仕訳の自動連携・定期モニタリング開始
特にフェーズ1の「契約データの洗い出し」は、紙の契約書を1件ずつ確認する必要があるため、想像以上に時間がかかります。契約数が多い企業ほど、今すぐ着手すべきステップです。
まとめ ─ 「うちは借りているだけ」では済まない時代へ
新リース会計基準は、不動産を「借りている」企業の経理業務を根本から変えます。特に多店舗・多拠点を展開する企業にとって、対応の負荷は決して小さくありません。
本記事のポイントを改めて整理します。
- 不動産の賃貸借契約がすべて貸借対照表に載る時代が来る
- フリーレント・解約条件・更新判断など、借主企業が見落としがちな落とし穴がある
- Excel管理には限界があり、契約50件を超えたらシステム化の検討が必要
- 高額なERPを入れなくても、不動産特化の管理クラウド+計算エンジンという「第三の選択肢」がある
- 2027年4月に間に合わせるには、今すぐ契約データの洗い出しに着手すべき
「うちは不動産を借りているだけだから、対応は簡単だろう」── その認識のままでは、適用開始直前に膨大な作業に追われることになりかねません。まずは自社の賃貸借契約の全体像を把握することから始めてみてください。
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・執筆者

株式会社いい生活
ビジネス・ストラテジーグループ 営業戦略本部 営業戦略部 チームリーダー 石坂 協子
不動産業界で14年以上のキャリアを持つ。
マンションデベロッパーでの販売・都市開発、大手管理会社での売買仲介営業を経て、 賃貸管理システムのカスタマーサクセスとして7年間、不動産管理会社の業務改善を支援。 現在はいい生活の営業戦略本部にて、NTTデータビジネスブレインズとの新リース会計基準対応ソリューションの企画・営業推進を担当。 不動産取引の現場経験に加え、会計・ファイナンスの実務知識を持つ立場から、「不動産の商慣習を理解した新リース会計基準対応」のあり方を日々考えています。
本記事は、新リース会計基準の一般的な解説を目的としています。個別の会計処理の判断については、担当の監査法人または公認会計士にご相談ください。