
不動産取引におけるデジタル化が進むなかで、IT重説は業務の効率化と顧客満足度の向上を同時に実現できる手法として注目を集めています。
しかし、単にオンラインで重要事項説明を実施するだけでIT重説に対応しているということにはなりません。というのも、IT重説を円滑に進めるためには、契約者側の環境整備やルール遵守など、細やかな準備が欠かせないからです。
そこで今回は、IT重説対応物件とは何か、IT重説に対応することによって得られるメリット、具体的な流れや注意点までをわかりやすく整理します。
IT重説の対応物件とは?

IT重説対応物件とは、貸主や売主の同意があり、宅地建物取引士と顧客の双方がオンラインで重要事項説明を行える取引を指します。IT環境が整っていることを前提にした上で、IT重説を実施するための条件が国土交通省のガイドラインで以下の通り定められています。
- 双方向でやりとりできる通信環境の整備
- 重要事項説明書の事前送付
- 実施前の書面到達確認とIT環境の確認
- 宅地建物取引士証の提示と相手方による視認
- 説明内容の録音・録画(推奨)
- 機器トラブル時の中断・中止手順の共有
IT重説は、賃貸借契約だけでなく売買契約でも認められており、利用機会は年々広がっています。その一方で、契約者側のネット環境やITリテラシーによっては、準備や実施がスムーズに進まないこともあります。そのため、事前に確認をしっかりと行い、サポート体制を整えておくことが重要です。
そもそもIT重説とは?
IT重説とは、パソコンやスマートフォンを使い、Web会議システムを通じて重要事項説明を行うことを指します。
説明の内容や手順そのものに違いはなく、宅建業法上、対面と同様の法的効力が認められています。対面時と同様に、宅地建物取引士が担当し、借主や買主には事前に重要事項説明書を交付することが必要です。
IT重説は賃貸借契約だけでなく、売買契約でも実施可能です。契約書類の電子交付が可能となったことで、重要事項説明から契約締結までをオンラインで完結させるケースも増えています。不動産取引全体のデジタル化が進むなかで、IT重説の活用が今後はさらに一般化していくことでしょう。
なぜIT重説に対応する必要があるのか?
賃貸借契約におけるIT重説は2017年10月に導入されました。続いて、売買契約でも2021年4月から本格的な運用が始まっています。その後、2021年5月にデジタル改革関連法が成立し、2022年5月には宅地建物取引業法が改正・施行されました。これにより、重要事項説明書や契約書類の電子交付が認められるようになったのです。
これらの制度改正により、不動産取引のオンライン化は大きく進展しており、顧客のニーズも変化しています。そのため、IT重説に対応できる体制を整えることは、不動産会社の競争力を高めることにつながるでしょう。また、来店対応にかかる手間や時間も削減できるため、業務効率化につなげることもできるはずです。
今後も取引のデジタル化は一層進んでいくと考えられるため、IT重説への対応は不動産会社において不可欠な取り組みとなりつつあります。
IT重説に対応することで得られるメリットとは?

IT重説には、単に「オンラインで重説ができる」以上のさまざまなメリットがあります。顧客にとっての利便性向上はもちろん、不動産会社にとっても業務効率化やトラブル防止といった効果が期待できます。
ここでは、IT重説がもたらす主なメリットについて解説します。
顧客満足度の向上につながる
IT重説は、場所を選ばず実施できるため、遠隔地に住む顧客への対応がしやすくなります。
例えば、転勤や住み替えを検討している顧客、地方から都市部への移住を考えている顧客などが該当します。それぞれ、移動時間や交通費などの負担を軽減できるでしょう。
また、IT重説に対応した物件であれば、重説から契約手続きまでを迅速に進められるため、早期の入居につながる可能性もあります。
不動産会社にとっては、遠方の顧客との接点を逃すことなく成約機会を広げる効果も期待できます。併せて、スムーズな対応による顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
業務の効率化につながる
IT重説に対応することで、日程調整がしやすくなるため、業務の効率化が図れます。
特に繁忙期には、物件案内や契約手続きなどを同時に進める必要があり、重要事項説明の日程を合わせるだけでも手間がかかるでしょう。IT重説であれば、場所や時間にとらわれず重要事項説明を実施できるため、顧客と不動産会社の双方が日程をスムーズに調整しやすくなります。
なお、繁忙期の不動産業務の効率化は、不動産業務支援サービスを併用するとさらに効果が高まります。『いい生活賃貸クラウド One』、『いい生活売買クラウド One』は、賃貸・売買それぞれの業務のデジタル化を支援するサービスです。IT重説に必要な契約書や重要事項説明書の作成・管理はもちろん、取引台帳の整備や業務記録の一元管理にも対応しています。日々の事務作業の手間を減らし、コスト削減と業務の効率化を後押ししてくれますので、繁忙期前のご検討・ご導入をおすすめします。
録音・録画を記録として残すことができる
IT重説は、録音や録画によって説明内容を記録として残すことが可能です。IT重説の内容を保存できるため、後々のトラブルを防ぐ効果が期待できます。
特に、重要事項説明書の記載内容や、契約条件についての認識に相違が生じた場合、録音・録画データが有効な証拠となるでしょう。また、顧客にとっても、説明を後から見直すことができるため、理解促進や安心感の向上にもつながります。
IT重説の流れ

IT重説をスムーズに実施するためには、事前準備から契約締結まで、各ステップを確実に進めることが重要です。ここでは、IT環境の確認から書類送付、接続テスト、本番実施、そして契約締結に至るまでの基本的な流れを順を追って整理していきます。
契約者側のIT環境を確認する
IT重説の実施にあたって、まず契約者側のIT環境が条件を満たしているかどうかを確認しておく必要があります。
買主や借主がマイク・カメラ・スピーカー機能を備えた端末を持っているかをチェックしなければなりません。併せて、IT重説に使用するアプリを事前にダウンロードするなどの案内も必要に応じて行います。また、セキュリティリスクが高いフリーWi-Fiスポットの利用は避けることも、事前に顧客へ案内しておきましょう。
他にも、IT重説に使用するアプリやWeb会議システムが、契約者の端末で正常に動作するかも事前に確認する必要があります。OSやブラウザのバージョンによっては、接続に支障が出ることもあるため、推奨環境を案内することが大切です。必要に応じて、端末のアップデートなども案内しておきましょう。
接続テストを行う
双方のIT環境が確認できたら、日時を決めて事前にテスト通信を行います。画面がはっきり読めるか、音声がクリアに聞こえるかなどをチェックすることで、本番時のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
なお、スマートフォンを使用する場合は、通信量の増加に注意が必要です。重要事項説明は一定の時間を要するため、通信料の増加による速度制限がかかると途中で通信が途切れる可能性があります。事前に速度制限の有無を確認し、必要に応じてWi-Fiの利用を案内するなどの対策が必要です。
書類一式を契約者側に送付する
事前のテストが完了し、IT重説の実施可否が判断できたら、書類一式を契約者に送付しましょう。
書類一式は、IT重説を実施する前日までに、契約者の手元に到着している必要があります。というのも、宅地建物取引士が記名押印した重要事項説明書を契約者に事前に確認してもらう必要があるからです。
併せて、契約書案や付随資料を送付する場合もあります。いずれも誤送や漏れがないようにしましょう。顧客の手元に書類が届いていない場合は、IT重説を実施できませんので、事前に到達確認を行うと安心です。
IT重説を実施する
IT重説を開始する前に、宅地建物取引士証の提示が必要です。画面上で認識できたかどうかを顧客に確認してからIT重説を開始しましょう。また、顧客が契約者本人であることも確認が必要です。運転免許証などの顔写真付き本人確認書類を提示してもらい、本人確認を行います。
IT重説を開始したら、顧客の表情や応答を意識しつつ、理解状況を確認しながら説明を進めていきます。画面越しでのやりとりは顧客の理解度の把握が難しいので、注意が必要です。例えば、説明の節目ごとに「ここまででご不明な点はありませんか」などと積極的に声をかけるのも一案です。不安や疑問があっても画面越しでは発言しづらい場合もありますので、
双方向のコミュニケーションを意識しながら進めると捗るでしょう。
契約者が署名捺印または電子署名をする
IT重説が完了し、不明点や疑問点に関する質疑応答が一通り済んだタイミングで重要事項説明書への署名・捺印に移ります。署名・捺印後は、記載内容や押印に漏れがないかをしっかりと確認するようにしましょう。
続けて契約に移る場合は、署名済みの契約書と併せて重要事項説明書を返送してもらいます。返送方法については、郵送や宅配便など確実な手段を案内し、返送期限も設定しておくとスムーズです。
電子書面で手続きをする場合は、電子署名を付与してもらい、メールまたはWeb上の専用システムを通じて返送してもらいます。その際、電子署名についても事前に操作方法を説明し、送信完了後の確認も徹底するようにしましょう。
契約の締結が完了したら鍵を発送します。発送後は顧客本人が受領したことを確認するようにしましょう。受領確認が取れた時点で手続きは完了となります。
IT重説対応物件における注意点

IT重説を円滑に実施するためには、事前準備とルールの把握が欠かせません。特に、録音・録画への同意取得や、顧客のITリテラシーへの配慮、通信環境の整備といったポイントを押さえておくことが、トラブル防止とスムーズな進行につながります。
ここでは、IT重説に対応する上で押さえておきたい注意点を整理してご紹介します。
IT重説のルールを把握する
IT重説を適切に実施するためには、ルールを正確に把握しておく必要があります。
国土交通省の「ITを活用した重要事項説明の実施マニュアル(2021年3月)」では、前述したポイントに加えて、留意すべき事項として以下の内容が示されています。
- 顧客に対し、IT重説の実施に同意する意思があるかを事前に確認すること
- 宅地建物取引士本人が重要事項説明を行い、代理による説明は認められないこと
- 事前送付した重要事項説明書と、実際に説明する内容に差異がないよう整合性を確保すること
- 実施後、重要事項説明書の控えを適切に保管し、必要に応じて提出できる体制を整えること
これらのルールを正しく理解し、あらかじめ準備を整えておくことが大切です。例えば、実施前のチェックリストを作成しておくと、これらを漏れなく実務に落とし込むことができるでしょう。IT重説におけるトラブルを防ぎ、スムーズな契約手続きにつなげることができるはずです。
録音・録画の同意を得る
IT重説の内容を録画・録音する際には、あらかじめ顧客の同意を得ることが必要です。重説には個人情報が含まれる場合があるため、録音・録画の利用目的を事前に明確に説明し、双方の合意に基づいて実施します。
IT重説の途中で、顧客のプライバシーに関わる情報が出た場合や、録音・録画に適さない内容が含まれた場合には注意が必要です。一旦録音や録画を中断し、状況に応じて再開するといった対応が求められます。
録音・録画データを保存する場合には、他の個人情報と同様に、個人情報保護法に則った適切な管理体制が必要です。併せて、録音・録画データの保存期間や取扱い方法についても、社内でルールを定めておきます。保存期限を設定し、期限を過ぎたデータは適切に消去するなど、情報管理に万全を期すようにしましょう。
なお、顧客が録音・録画に同意しなかった場合には、その旨を記録に残し、別途、書面等で説明内容を裏付ける対応が必要です。記録を適切に残すことで、後日のトラブル防止にもつなげることができます。
重要事項説明の大切さを理解してもらう
IT重説は、自宅などリラックスした環境で説明を受ける方が多いです。そのため、対面時に比べて説明内容への集中度が低下するおそれがあります。まず、重要事項説明の意義を顧客にしっかり理解してもらうことが大切です。
事前に説明の目的や内容、わかりにくい場合の質問方法などを明確に伝え、説明への意識を高めるようにしましょう。
また、IT重説は周囲に緊張感がないことから、顧客が受け身の姿勢になり、理解が深まりにくい傾向も見られます。説明の途中でも適宜、理解度を確認しながら進めることが重要です。
重要事項説明については以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
顧客のITリテラシーに配慮する
顧客のITリテラシーは十人十色です。スマートフォンやパソコンの基本操作に慣れていない方もおり、ビデオ通話や資料共有に不安を抱える顧客も少なくありません。
特に、ご高齢の方やIT機器に不慣れな方は、操作手順そのものが負担になることも少なくありません。そのため、IT重説を行う際は、契約者のITリテラシーを事前に把握し、適切な対応を検討しておくことが大切です。
特に利用端末がスマートフォンである場合は、注意が必要です。スマホはパソコンやタブレットに比べて画面が小さく、文字や図面が見えづらいため、説明内容の理解度や集中力に影響を及ぼす可能性があります。
これらを確認した上で、必要に応じて事前にサポートすることや、別の手段(PCでのIT重説もしくは対面重説など)への切り替えなども想定しておくとなお良いでしょう。
通信環境を整備する
IT重説では、対面での重説と同じように質疑応答を円滑に行える通信環境を整えておくことが欠かせません。
通信トラブルを未然に防ぐためには、説明当日に使用する端末やアプリケーションのアップデート状況を事前に確認することが大切です。ルーターやネットワーク機器の再起動を行うなど、通信の安定性を高めるための対策も講じておくことが推奨されます。
通信環境に加えて、カメラやマイクなど必要な機器の準備も重要です。IT重説に対応した専用のビデオチャットアプリを活用すれば、IT重説をより円滑に進めることができるでしょう。
『いい生活ビデオトーク』は、不動産業界のWeb接客・IT重説向けに最適化した、スマホアプリ不要で簡単に使える新しいビデオ通話クラウドです。
特にスマートフォン利用時は、SMSで送信されたビデオ通話用URLをタップするだけで簡単に接続できます。アプリのインストールや事前のメール送信作業も不要で、契約者さまとのビデオ通話をよりスムーズに開始することが可能です。
IT重説に対応して顧客満足度の向上と業務効率化を実現しよう

ここまで、IT重説が顧客満足度の向上と業務効率化の両面で効果があることについてご紹介しました。IT重説に対応することで、日程の調整が柔軟になり、顧客の負担を軽減できます。また、不動産会社は成約機会を広げることができ、省力化による業務効率化も期待できるでしょう。
その一方で、ガイドラインの遵守や通信環境の整備、顧客への配慮などを怠ると、本来の効果は得られません。効率化を追求しつつも「正確で信頼できる取引」を実現するためには、丁寧な準備と運用がこれまで以上に求められます。
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