
不動産業界を狙うサイバー攻撃の背景
不動産業界特有のリスクとは?
不動産業界は、膨大な量の個人情報や機密情報を日常的に扱う業界であり、その特性からサイバー攻撃の標的となりやすいです。不動産会社が扱う顧客データには、氏名や住所、物件情報、さらには金融情報が含まれる場合もあり、これらは攻撃者にとって非常に価値のある情報です。また、多くの企業でデジタル化が進む中、不動産業界は他業界に比べてやや遅れた状況にあり、セキュリティへの投資や対策が不足しているケースが少なくありません。さらに、内部不正やヒューマンエラーによるリスクも高く、業界全体としてリスク管理が課題となっています。
増加するデジタル取引に伴う脆弱性
近年、不動産業界でもデジタル化が進む一方で、それに伴う脆弱性も顕在化しています。これまで紙で行われていた契約業務や情報管理がオンライン化されることにより、攻撃対象となるデータやシステムの範囲が拡大しています。例えば、不動産管理システムに保存された顧客データが不十分なセキュリティ対策のまま運用されると、サイバー攻撃のリスクが一気に高まります。また、不動産取引における電子決済やオンライン契約が普及することで、フィッシング詐欺やマルウェア感染といった新たな攻撃手法が増加しています。そのため、企業にはこれらの脆弱性に対応した高度なセキュリティ対策が求められています。
標的型攻撃の巧妙化と手口
不動産業界を狙った標的型攻撃は、近年ますます高度化しています。攻撃者は、不動産会社の従業員や取引先を装った巧妙なフィッシングメールを送信し、不正にシステム内へのアクセスを試みます。また、SQLインジェクション攻撃やランサムウェアによるデータの暗号化・脅迫など、より直接的な手口も確認されています。これらの攻撃は、企業のセキュリティが脆弱な部分を狙い撃ちにして行われるため、被害を最小限に抑えるには、企業内部での防御体制の強化と専門家による診断や対策が欠かせません。特に小規模な不動産会社では、こうした攻撃を受けても気づかない場合があり、結果として重大な情報漏洩に繋がる可能性も高いです。
実際に起きた情報漏洩事例

顧客データ流出の事例分析
不動産業界では、顧客データ流出が頻発しており、その影響は深刻です。その一例として、2021年にはあるマンション管理事業者による5000件の顧客情報が、大手建設会社では7000件ものデータが流出しました。これらの事件の背景には、サイバー攻撃や内部不正などが関連しており、特にフィッシング詐欺やマルウェア感染が主要な原因とされています。顧客データには氏名や住所、物件情報などの機密性が高い内容が含まれており、その流出は顧客プライバシーの侵害だけでなく、不動産会社の信頼を著しく損ねるリスクが伴います。
ランサムウェア攻撃による被害
近年、不動産会社を狙ったランサムウェア攻撃が増加しています。ランサムウェア攻撃とは、システムやデータを暗号化し、それを解除するために身代金を要求する手法です。不動産業界特有の問題として、システムのデジタル化の遅れとセキュリティ対策の甘さが挙げられます。特に契約データや顧客情報の管理が紙ベースの場合も多く、セキュリティ対策が行き届いていない環境でこうした攻撃にさらされる可能性が高まります。このような攻撃により、システムダウンや情報漏洩の二次被害が発生し、多額の復旧コストや企業イメージの悪化といった甚大な被害をもたらします。
本県工事受注者へのサイバー攻撃について 出典:埼玉県ホームページ
不正アクセスによる取引妨害
不正アクセスも不動産会社にとって大きな脅威です。典型的な事例として、M社ではSQLインジェクションを利用した攻撃により24万件のメールアドレスとログインパスワードが流出しました。このような不正アクセスにより重要な取引を妨害されたり、顧客との信用関係が損なわれたりするケースが報告されています。不動産取引には多額の資金が動くため、一旦不正被害が発生すると、大規模な法的トラブルに発展することもあります。このようなリスクを減少させるためには、企業全体でのシステムの脆弱性を徹底的に見直す必要があります。
不動産会社が直面するリスクの種類

個人情報保護法との関連
不動産業界は顧客の氏名、住所、物件情報、成約情報といった多くの個人データを扱うため、個人情報保護法と密接に関係しています。2022年に施行された改正個人情報保護法では、企業が個人情報を適切に管理する義務が拡大されており、これを遵守しない場合、罰則や企業イメージの損失につながる可能性があります。不動産会社が抱えるセキュリティリスクには、サイバー攻撃や内部不正などの直接的な脅威に加え、法令違反に伴う責任発生のリスクも含まれます。そのため、法規制を深く理解し、適切な対応を行うことが不可欠です。
企業信頼への影響と潜在的損害
サイバー攻撃による情報漏洩が起きた場合、不動産会社が顧客および取引先から失う信頼は計り知れません。プライバシー侵害に対するクレームや法的責任が発生すれば、企業イメージやブランドに大きなダメージを与える可能性があります。特に不動産業界では、高額な取引が日常的に行われるため、信頼が重要な競争力の一つとなります。実際に顧客データの流出や取引妨害の事例が起きた場合、経済的損失だけでなく、長期的な営業活動にも甚大な悪影響を及ぼします。
インフラコストとセキュリティ投資のバランス
不動産業界では、セキュリティ対策に十分な投資を行わない企業も少なくありません。一方で、近年のサイバー攻撃の増加に伴い、セキュリティリスクが軽視できないものとなっています。セキュリティ投資はインフラコストの一部として見なされることが多いですが、その重要性を理解しないまま低予算で対応すると脆弱性を生む可能性が高くなります。適切なシステム導入やセキュリティソフトウェアの更新、従業員教育にコストを割くことで、将来的な被害リスクを軽減できるという認識が必要です。限られた予算の中で、リスク管理と投資のバランスをどのように最適化するかが重要な課題となっています。
今すぐ取り組むべきセキュリティ対策

セキュリティソフトウェアの導入・運用
不動産業界では、膨大な個人情報や機密データを扱うため、それらを保護するためのセキュリティソフトウェアの導入が急務です。特にサイバー攻撃の増加や攻撃手法の巧妙化に伴い、高度なマルウェア検出機能や侵入防止システムを持つソフトウェアを選定するとともに、定期的にアップデートを実施することが重要です。また、脆弱性診断の機能を活用することで、システムリスクを事前に特定し対策を講じることが可能です。不動産会社は、これらの対策を怠ると情報漏洩や取引妨害といった深刻なリスクを背負う可能性があります。
内部監査と従業員教育の徹底
セキュリティ対策を強化するには、システムや運用面での状況を定期的に確認する内部監査が不可欠です。不動産業界では、内部不正やヒューマンエラーが情報漏洩の主な原因の一つとなっています。そのため、従業員を対象としたセキュリティリテラシー向上のための教育を定期的に実施し、フィッシング詐欺や不審なメールに対する注意喚起を行いましょう。特に、デジタル契約の普及に伴い増加するサイバーリスクへの知識を広め、セキュリティ意識を高めることが重要です。
外部ベンダーと専門家の活用
セキュリティ対策において、自社のリソースだけでは限界がある場合があります。不動産業界は他業界に比べ、デジタル化やセキュリティ投資が遅れている傾向があります。そのため、セキュリティ対策を専門とする外部ベンダーや専門家に協力を依頼するのも有効な手段です。例えば、脆弱性診断やセキュリティポリシーの策定支援を依頼し、不足している部分を補完することで、潜在的な脅威を軽減できます。これにより、不動産会社がサイバー攻撃による被害を未然に防ぐだけでなく、法的リスクへの対応力を強化することも可能となります。
すぐにできる対策

パスワードポリシーの強化
サイバー攻撃による被害を防ぐためには、まずパスワード管理を徹底することが重要です。不動産業界では、不動産物件の管理システムや顧客情報のデータベースなど、パスワードを利用するシーンが多くあります。しかし、弱いパスワードを使用している場合、ハッカーに簡単に破られるリスクがあります。
パスワードポリシーを強化する際は、大文字、小文字、数字、記号を組み合わせた複雑な構造のパスワードを設定するよう求めるべきです。また、2段階認証を導入することも効果的で、アクセスするデバイスに追加の認証プロセスを要求することで、不正アクセスの可能性を下げることができます。
さらに、定期的にパスワードを変更し、適切な管理体制を整えることで、不動産会社のセキュリティ対策を大幅に強化できます。
被害時の対応マニュアルの整備
サイバー攻撃の脅威が高まる現代、不動産会社にとって被害発生時に迅速な対応を行うためのマニュアル整備は必要不可欠です。緊急対応マニュアルが整備されていない場合、攻撃発生後の対応が遅れ、損害が拡大する可能性があります。
特に、不動産会社が多くの顧客情報や機密情報を取り扱っていることを考慮すると、漏洩による影響が甚大になることが予測されます。そのため、攻撃の兆候を早期に検知した場合の初動対応や、被害拡大を防ぐための具体的な手順を明確化しておく必要があります。さらに、顧客や取引先への情報発信の手順も含めた包括的なプランを策定することが求められます。
こうしたマニュアルを定期的に更新し、従業員に対して内容を共有・教育することで、企業全体としてのセキュリティ意識を高めるとともに、被害を最小限に抑えることが可能となります。
クラウドシステムの適切な利用
多くの不動産会社が、業務の効率化やデータ管理の利便性を理由に不動産向けクラウドシステムを導入しています。しかし、不動産向けクラウドシステムの不適切な設定が脆弱性を生む原因となることもあります。適切に利用することで、システムリスクを最小限に抑えることが可能です。
具体的には、利用しているクラウドサービスが提供するセキュリティオプションを最大限に活用することが必要です。アクセス権限を厳密に制御し、必要最低限の操作権限を従業員に与えることで、内部不正のリスクも減らせます。
クラウドの利便性を享受しつつ、不動産企業に特有の機密情報を保護するために、適切な運用ルールの策定と定期的な見直しを行いましょう。
・執筆者

株式会社いい生活 マーケティング本部
マーケティング部
広報部
全国の不動産市場向けイベント、セミナーなどにて多数登壇、皆様のお役に立つ最新情報を発信しております。