
不動産業の開業には、手続きや設備準備など、さまざまな費用が発生します。なかには見落としやすい項目もあるため、事前にしっかり確認しておくことが大切です。
開業資金は一般的に約400万円程度とされますが、自己資金だけでは足りないケースもあるでしょう。そのため、公的融資などの資金調達制度を活用することが現実的な選択肢となります。
そこで今回は、開業に必要な費用の内訳や資金調達の方法、費用を抑えるためのポイントを紹介します。
不動産仲介業を開業する手順

不動産仲介業を開業するためには、法令に基づいた準備と手続きが必要です。大まかな流れは以下のとおりです。
① 経営方針の決定
- 経営形態(個人事業主 or 法人)を選ぶ
- 業種形態(賃貸仲介・売買仲介)を決める
② 資金と資格の準備
- 開業に必要な初期費用を用意する(約400万円程度)
- 宅地建物取引士を1名以上確保する
③ 事務所と法人設立
- 立地やコストを踏まえて事務所物件を選定する
- 法人設立手続きは並行して早期に実施する
④ 集客と業務環境の整備
- ホームページ制作は開業前から着手する
- オンライン/オフライン双方の集客手段を準備する
- 顧客管理システムの導入などを検討する
⑤ 免許取得と営業開始
- 宅地建物取引業免許を申請する
- 保証協会に加入する(営業保証金の負担を軽減)
- 営業開始後はPDCAを回し、継続的に改善を図る
不動産仲介業の開業に必要な費用

不動産仲介業を開業するには、さまざまな初期費用が必要です。法人設立費や宅建免許の申請手数料、保証協会の入会費用など、項目ごとに必要な金額は異なります。
さらに、専門家に手続きを依頼する場合、委託に伴う報酬も発生します。これらを見落としなく把握し、計画をたてることが重要です。
ここでは、主な費用の内訳と目安の金額について整理し、開業資金の見通しをたてるためのポイントをまとめます。
法人設立費用
株式会社として開業する場合、約24万2,000円の費用がかかります。内訳は以下のとおりです。
- 登録免許税:15万円
- 定款の認証手数料:5万円(資本金により3〜5万円の幅で変動)
- 収入印紙代:4万円(電子定款なら不要)
- 定款の謄本手数料:2,000円(電子定款なら300円)
電子定款を選ぶと収入印紙代が不要になり、コストを抑えることができます。また、設立手続きを行政書士などに依頼する場合は、別途10万円前後の費用が必要です。
宅建免許の申請手数料
不動産仲介業務を行う場合、宅地建物取引業免許の取得が必要です。免許は事務所の設置場所によって次の2種類に分かれます。それぞれの申請手数料は以下のとおりです。
- 都道府県知事免許:1つの都道府県内にのみ事務所を置く場合
→申請手数料:33,000円 - 国土交通大臣免許:2つ以上の都道府県に事務所を置く場合
→申請手数料:90,000円
県をまたいで事務所を設けた場合、大臣免許が必要です。その場合、申請費用は約6万円高くなります。初期費用として見落とされがちな項目なので、あらかじめ確認しておきましょう。
営業保証金
不動産仲介業の開業にあたっては「営業保証金」を供託所に預ける必要があります。これは宅地建物取引業法で定められたもので、必ず支払わなければならない費用です。
営業保証金は、顧客との取引でトラブルが生じた場合の弁済金としての役割を担います。不測の事態で業者が債務を履行できなくなった場合、供託された資金から顧客への支払いが行われます。
営業保証金の金額は設置する店舗数に応じて決まっており、以下のように定められています。
- 本店(主たる事務所):1,000万円
- 支店(その他の事務所):500万円
店舗数が増えるほど費用もかさむため、開業資金の計画時にしっかりと把握しておく必要があります。
保証協会への入会金
保証協会は、上記営業保証金の免除が目的で加入するケースが一般的です。保証協会に加入すると本店は60万円、支店は30万円の弁済業務分担金の納付で代替できます。
主な保証協会として「全国宅地建物取引業協会(全宅)」と「全日本不動産協会(全日)」があります。いずれも営業保証金の代替制度を備えています。
保証協会への加入費用は地域や協会によって異なります。加入を検討する際は、各協会や地域の宅建協会に確認するようにしましょう。
事務所開設費用
事務所の開設にかかる費用はケースバイケースです。目安として0~200万円程度を想定しておくとよいでしょう。具体的な費目は以下のとおりです。
- 事務所を賃貸借する際の敷金や礼金、仲介手数料などの物件費用
- デスクやパソコンなどの設備備品費用
- インターネットや電話などの「通信費」など
物件費用は、敷金の相場が賃料の1~12カ月分で、契約条件や物件によって異なります。設備費用は、最低限のオフィス機器で20~100万円程度が目安です。通信費も5~10万円程度を見込んでおくとよいでしょう。
なお、自宅を事務所として利用すれば費用が抑えられます。しかし、開業要件に適合しているかどうかの確認が必要なため注意が必要です。
その他諸経費
これらの他にも「車両購入費用」や「委託費用」などの諸経費も必要になります。
車両は物件案内時に必要になりますが、すでに所有している自家用車を業務用に転用しても問題ありません。新たに購入する場合は車種によって数十万~数百万円の出費を見込んでおく必要があります。事業スタイルや地域性を踏まえ、購入費用を事前に検討しておくことが必要です。
また、法人設立や税務署への届出などの手続きを専門家に委託した場合、支払いが発生します。特に法人の場合は、設立後の税務処理を見据えて、税理士や司法書士にサポートを依頼することが一般的です。これらを委託した場合の初期費用は、おおよそ20万~30万円程度が相場とされています。
不動産開業に利用できる主な融資制度

不動産仲介業の開業には多額の初期費用がかかるため、融資制度の活用は現実的な資金調達手段の1つです。
ここでは、主な融資制度の概要や特徴、利用にあたっての注意点について整理・解説します。
日本政策金融公庫の創業融資
開業資金の調達手段として多くの事業者が活用しているのが日本政策金融公庫の創業融資です。
日本政策金融公庫は、国が全額出資する政府系金融機関です。一般の銀行では融資を受けにくい創業初期の企業を支援する役割を担っています。宅建業免許の取得や事務所の準備が整っていれば、不動産仲介業者も融資対象となる可能性があります。
創業融資において重視されるのは、事業計画の実現性と自己資金の有無です。融資を受けるには、どのように事業を展開していくかを明確に示すことが求められます。特に、開業後すぐの収支計画や資金使途の内訳などを具体的に示すことが大切です。
金利は年率2〜3%台と比較的低く、無担保・無保証で借りられる制度も用意されています。そのため、初期費用が高額になりやすい業種にとって、創業融資は心強い資金調達手段の1つといえるでしょう。
保証付き融資
各都道府県の信用保証協会が返済を保証する保証協会付き融資も選択肢の1つです。保証協会が返済の保証を付けるスキームのため、金融機関の貸し倒れリスクが軽減されます。そのため、創業初期でも融資を受けやすいことが特徴です。
この制度は、自治体と連携している地元の銀行や信用金庫などを通じて申し込むことが一般的です。金利や融資枠、返済期間などの条件は自治体ごとに異なります。開業予定地の自治体のホームページや窓口で確認しましょう。
また、制度によっては、融資利率の一部を自治体が補助してくれるケースもあります。これにより、実質的な負担を軽減することが可能です。融資にあたっては、事業計画書の提出や面談が求められるため、しっかりと準備しておくことが求められます。
不動産開業で融資を受けるための条件

不動産仲介業の開業資金として融資を受けるためには、いくつかの前提条件を満たす必要があります。ここでは、創業融資などを受けるために必要な条件について整理します。
宅建業免許を取得していること
不動産業で創業融資を受ける場合、宅建業免許の取得が欠かせません。免許がない状態では、事業の準備が不十分と判断され、金融機関の審査対象から外れてしまう可能性があります。
特に日本政策金融公庫の創業融資では、免許の取得が申請時の要件として明記されています。融資を視野に入れる場合は、まず免許の取得とともに、事務所の確保や体制の整備を優先的に進めましょう。
一定の自己資金があること
創業融資を受ける際には、自己資金をどの程度用意しているかが重要な審査ポイントになります。日本政策金融公庫の創業融資では、申請額の1割以上が目安とされることが多いようです。しかし実際は、自己資金の1〜2倍程度の融資額になるケースも見られます。
また、資金の出所も審査のポイントとなります。預金口座に計画的な入金履歴があると評価されやすいです。一方で、大きな金額が一度に振り込まれている場合は、贈与や借入とみなされる可能性があります。
信用情報に問題がなく税金滞納がないこと
融資審査では、自己資金の有無に加えて、信用情報と納税状況も厳しくチェックされます。過去にローンやクレジットの返済遅延があると、信用に問題があると判断されます。
また、住民税や国民健康保険料の滞納も、返済能力に不安があるとみなされ審査のマイナスとなります。融資申請前に、CICやJICCなどで信用情報を確認しておくとよいでしょう。
不動産の開業費用を抑えるためのポイント

不動産業を立ち上げる場合、開業資金の負担はハードルとなります。特に初期は収益が不安定なため、コストを抑えてスタートすることが重要です。例えば、自宅を事務所にする、SNSを活用して広告費を抑えるといった方法があります。
ここでは、費用を抑えながら効率的に開業するための工夫や、ツールの活用方法について解説します。
自宅を事務所にして固定費を最小限にする
開業時の大きな負担となる事務所費用は、自宅を活用することで大幅に抑えることが可能です。
賃料や敷金・礼金などの初期費用が不要になり、光熱費や通信費も一部経費として扱える点がメリットです。来客が少ない事業形態であれば、自宅でも対応できるでしょう。固定費を抑えることで、開業後の資金繰りに余裕を持たせることができるはずです。
ただし、自宅兼事務所とする場合は、顧客対応やプライバシーの管理、信頼性の確保に留意する必要があります。事業用の体裁を整えたスペースづくりや、法人登記に関する確認も忘れずに行いましょう。
1人開業で人件費をカットする
不動産仲介業を1人で開業する最大のメリットは、人件費を抑えられることです。人を雇えば給与や保険料といった固定費が発生します。しかし、1人であればその負担はありません。開業直後の収益が不安定な時期でも、資金繰りを安定させやすくなるでしょう。
また、すべての判断を自分で行えるため、業務のスピードや柔軟性も高まります。働き方の自由度が高く、自分のペースで経営できることも魅力です。さらに、報酬も経営状況に応じて自由に調整できるため、無理のない運営が可能になります。
事業運営の費用対効果を高める
不動産業の運営においては、広告費の負担が経営を圧迫することも多いです。そのため、費用対効果の高い集客手法を選ぶことが大切です。なかでも、SNSは初期費用をかけずに情報発信できる有効な手段といえるでしょう。例えばInstagramは物件の写真や動画で魅力を伝えるのに適していますし、YouTubeではルームツアー動画が人気です。
ただし、SNSへの投稿だけでは問い合わせや成約に直結しにくいことがデメリットです。そのため、自社ホームページを「受け皿」として整備することが重要になります。SNSから流入した見込み客が、問い合わせや内見予約へと進めるような導線を設けるようにしましょう。詳しい情報を掲載し、問い合わせや内見を後押しすることを意識すると効果的です。
不動産会社向けホームページ作成ツール『いい生活ウェブサイト』は、物件情報をはじめとするコンテンツ作成に必要な機能が充実しています。テンプレートが充実しており、簡単に素早くホームページを作成することが可能です。問い合わせフォームをカスタマイズすることもできるため、成約につながる仕組みを誰でも構築できます。
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不動産仲介業の開業には約400万円の初期費用がかかるとされています。しかし、融資制度の活用や運営コストの工夫によって、負担を抑えることが可能です。
開業資金の調達には融資を活用しましょう。融資を受けるためには、宅建業免許の取得や自己資金の準備といった事前準備が大切です。
また、法人設立や宅建免許の取得、営業保証金などの費用を正しく把握することもポイントの1つです。自宅を事務所にする、SNSを活用した集客など、無理のないスタートを目指すと費用を抑えやすくなります。
SNSを活用する場合は、ホームページを整備し、問い合わせへつなげる導線づくりが重要です。不動産会社向けホームページ作成ツール『いい生活ウェブサイトを活用すれば、物件掲載からサイト分析まで効率よく運用できます。
堅実な資金計画と段階的な準備を重ねることで、不安を最小限に抑え、着実に開業までの道のりを進んでいきましょう!
・執筆者

株式会社いい生活 マーケティング本部
マーケティング部
広報部
全国の不動産市場向けイベント、セミナーなどにて多数登壇、皆様のお役に立つ最新情報を発信しております。