
不動産登記法は、不動産の権利関係を明確にし、安全な取引を支える重要な法律です。近年、所有者不明土地の増加などの課題に対し、相続登記の義務化などの新たな制度が導入されました。
これらの改正は、個人の手続きに直結するだけでなく、不動産仲介業務にも大きな影響を与えます。この記事では、不動産登記法改正の目的や内容、実務への影響についてまとめ、不動産仲介実務の視点で解説します。
不動産登記法の役割と目的

不動産登記法は、土地や建物といった不動産の権利関係を記録・公示するための法律です。所有者や権利の状況を明確にすることで、不動産取引の安全性と円滑さを確保しています。
不動産は多額の金銭が動く取引であり、情報が不足していると安心して進めることはできません。そのため、不動産の基本的な情報の整理を目的に、登記制度が設けられました。登記簿には、該当する土地や建物の内容、所有者、抵当権などの権利関係が記録されています。
不動産登記法改正の概要

所有者不明土地の増加は、民間取引や土地活用を妨げる深刻な問題となっています。こうした状況に対応するため、不動産登記法が改正されました。
今回の改正では、相続登記の義務化や住所変更登記の義務化が盛り込まれています。いずれも所有者を明確にすることが狙いです。ここでは、改正の目的と公布・施行日のポイントをまとめ、土地利用に与える影響について解説します。
不動産登記法の改正の目的
不動産登記法が整備されたものの、相続登記をしない土地が増えており、全国的な問題となっています。こうした土地は民間取引を妨げ、利用や管理を困難にするだけでなく、隣地にも悪影響を及ぼしています。
所有者が見つからない土地は、相続が重なることで共有者が膨大となりがちです。結果として、処理に多大な時間と費用がかかります。公共事業や復興事業の妨げとなるといったことにもなりかねません。
不動産登記法の改正は、これら諸問題の解消を目的としています。改正のポイントは、相続登記の義務化で、所有者を明確にする狙いがあります。これにより、土地利用の円滑化を促すものとなっています。
不動産登記法の公布・施行日は?
不動産登記法の改正は、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年4月28日法律第24号)が根拠となります。公布日は2021年4月28日で、改正部分の多くは2023年4月1日から施行されています。
なお、相続登記の義務化は2024年4月1日から施行されており、住所変更登記の義務化は2026年4月1日に施行される予定です。不動産登記法の改正ポイントにつきましては、以下の本文内でそれぞれ解説します。
相続登記の義務化

不動産登記法の改正で、相続などで不動産を取得した場合に、一定期間内の登記が義務化されました。これを怠ると過料が科される可能性もあるため、注意が必要です。
ここでは、義務化の内容や対象、過料規定などについてまとめたうえで、相続人が押さえておくべきポイントについて解説します。
相続登記の義務化とは?
2024年4月1日から、相続や遺贈によって不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に登記を申請する義務が課されました。
遺産分割が未了でも義務は生じます。その場合「相続人申告登記」で簡易に対応することも可能です。
登記を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。ただし、相続人の所在確認に時間を要する場合など、正当な理由があれば免除されることもあります。
義務化の対象と期限
相続登記の義務は、相続財産に不動産が含まれている場合にのみ発生します。不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に登記を行わなければなりません。遺産分割で相続人が決まった場合は、その決定日を基準に3年以内に手続きが必要です。
この新ルールは、2024年4月より前に発生していた相続にもおよびます。その場合は施行日から3年以内、すなわち2027年3月31日までに登記を完了する必要があります。
登記を怠った場合の過料規定
相続や遺贈で取得した不動産を、正当な理由なく3年以内に登記しなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
ただし、やむを得ない事情が認められた場合、過料の対象外となるケースがあります。 想定されるものとして以下のようなものがあります。
- 相続人が多数で、所在確認や資料収集に時間を要する場合
- 遺言の有効性や遺産の範囲に争いがある場合
- 相続人が重い病気を抱えている場合
- DV被害の恐れがあり、申請が困難な場合
- 経済的理由で登記費用を負担できない場合
これらに該当するかどうかの判断は、法務局の登記官が行います。 そのため、すべてのケースで免除されるわけではありません。具体的な状況に応じて判断が下されます。
検索用情報の申出義務化

2025年4月21日から、不動産登記において「検索用情報」の申出が新たに義務化されました。検索用情報とは、所有者を正確に特定するために法務局へ提出する個人情報です。今回の制度改正により、所有者不明土地の抑制が期待されています。
ここでは、検索用情報の申出の義務化についてまとめました。メールアドレスの提供がなぜ重視されているのか、登記済みの場合の取り扱いなどについて詳しく解説します。
検索用情報の申出義務化とは?
不動産登記における「検索用情報」の申出が、2025年4月21日から義務化されました。検索用情報とは、不動産の所有者を特定するために法務局へ提出する個人情報です。登記簿には掲載されません。
従来の登記簿には氏名と住所しか載らず、所有者が転居した場合に追跡ができないといったケースが多くありました。こうした所有者不明土地の発生を防ぐことが義務化の狙いです。
申出が必要となるのは、不動産の権利関係に変更が生じる登記申請です。たとえば、所有権保存登記、売買や相続に伴う所有権移転登記などが該当します。提供が必要なのは、氏名・フリガナ・住所・生年月日・メールアドレスの5項目です。
メールアドレスの提供と意思確認への活用
今回の制度で特に注目されるのが、メールアドレスの提供が義務付けられた点です。提供されたメールアドレスは、本人確認の連絡手段として活用されます。これにより、所有者は通知を迅速に受け取ることができ、手続きの行き違いや連絡漏れの防止につながります。
申請時に提供が必要なメールアドレスは、所有者本人が日常的に利用しているものでなければなりません。代理人による申請であっても同様です。また、2025年4月21日以前から登記名義人であった方は、任意でメールアドレスを届け出ることが可能です。これにより、本人への確実な連絡と、手続きの円滑な進行が担保されます。
なお、メールアドレスがない場合は申請書にその旨を記載することで、代わりに書面での通知が行われます。
すでに登記を終えている場合はどうする?
2025年4月21日以前に登記が完了している不動産については、検索用情報が登録されていません。この場合、検索用情報の申出は義務ではなく任意となります。
ただし、住所や氏名の変更があった場合は検索用情報の提供が必要です。検索用情報が未登録のままだと、所有者の特定に時間がかかり、手続きが遅れる恐れがあります。特に、2026年4月に実施される住所・氏名変更登記の義務化前後は、申請が集中し、混乱することが予想されます。
こうした事態を避けるためにも、登記完了済みの不動産についても、早めに検索用情報を申し出ておくことが推奨されます。
住所・氏名変更登記の義務化

2026年4月から、登記名義人の住所や氏名が変わった場合に、登記簿へ反映することが法律上の義務となります。対象は今後の変更だけでなく、過去の相続で未対応のものも含まれます。
あわせて法務局による職権登記の仕組みも整備されますが、すべてのケースに適用されるわけではありません。自身での申請が必要となる場面もあります。
ここでは、住所・氏名変更登記の義務化の内容や申請方法、違反リスクなどを解説します。
住所・氏名変更登記の義務化とは?
登記名義人の住所や氏名が変わった場合、変更を登記簿へ反映させる手続きの義務化が2026年4月1日に施行されます。違反した場合は、5万円以下の過料が科される可能性があります。
引越しや結婚、改姓などで情報が変わった場合、変更から2年以内に申請しなければなりません。従来は任意だった変更登記が、法的義務として位置づけられることになりました。
背景には、所有者不明土地の増加や、不動産の流通停滞といった社会問題があります。相続登記の義務化とあわせて、不動産の所有者情報を正確に管理することが目的です。
過去の変更にも義務化は適用される?
住所や氏名変更登記の義務化は、2026年4月1日以降の変更だけではありません。2026年3月31日以前に発生していた変更にも適用されます。たとえば、結婚によって姓が変わったにもかかわらず、登記簿の名義が旧姓のままだった場合などです。2026年4月1日以降は氏名変更登記の義務が生じます。
この場合、2026年4月1日からの2年間が猶予期間となります。2028年3月31日までに氏名変更登記を行えば、過料の対象にはなりません。
職権登記による自動更新の仕組み
職権登記制度は、法務局が公的データと連携し、自ら登記内容を更新する制度です。事前に必要な情報を届け出ておけば、登記官が住民基本台帳ネットワークや商業登記システムと照合。名義人の引越しや改姓などの場合に、自動的に把握して更新処理を進めるものです。従来は所有者が必ず申請する必要がありましたが、その手間を大幅に省けるようになります。
■ 個人の場合
個人の所有者は、氏名・住所・生年月日を「検索用情報」として登録します。住基ネットで変更が確認されると、法務局から意思確認の連絡があり、承諾を得て登記が更新されます。この場合、登記申請に必要な登録免許税がかからないため、費用負担の軽減にもつながります。
■ 法人の場合
法人は不動産登記と会社法人等番号が紐づけられます。商業登記で本店移転や名称変更をすれば、その情報が自動的に不動産登記に反映されます。個人と違い同意確認の手続きは不要で、商業登記を済ませるだけで完結します。法人の場合も登録免許税はかかりません。
■ 対象外となるケース
海外に住んでいる個人や、法人番号を持たない団体は制度の対象外です。これらの場合は連携ができないため、必ず所有者自身が2年以内に変更登記を申請しなければなりません。
この新制度は、申請漏れを防ぎ、登記情報を自動的に最新化する仕組みです。ただし、対象外のケースもあるため、顧客の属性に応じて適用の可否を確認する必要があります。
通常の登記申請方法と必要書類
住所変更登記や氏名変更登記は、義務化後も所有者自身で申請できます。申請先は不動産所在地を管轄する法務局で、窓口・郵送・オンラインから手続きが可能です。
【申請の流れ】
- 必要書類を準備する
- 登記申請書を作成する
- 管轄法務局へ提出し、登録免許税を納付する
※登記完了までは1週間程度かかります
【住所変更登記の必要書類】
- 登記申請書
- 住民票の写し、または戸籍の附票(住所変更を証明)
- 登録免許税(不動産1件につき1,000円:収入印紙で納付)
- 返信用封筒(郵送の場合)
※転居を繰り返している場合は、登記済証や登記識別情報などの追加書類が必要になることがあります
【氏名変更登記の必要書類】
- 登記申請書
- 戸籍謄抄本(改姓などを証明)
- 住民票の写し
- 返信用封筒(郵送の場合)
住民票や戸籍の発行には200〜300円程度の手数料がかかります。郵送申請では書留料金も必要です。なお、登記申請書は自身で作成する必要がありますが、法的な知識が求められます。不安がある場合は、司法書士に相談しましょう。
登記義務違反のリスク
住所や氏名の変更登記を怠った場合、正当な理由がない限り、5万円以下の過料を科されるおそれがあります。ただし、すぐに処分が下されるわけではなく、まず法務局から登記申請を促す「催告」が届きます。この催告に対して期限内に手続きを済ませれば、過料は回避できますが、無視した場合は処分の対象となる可能性があります。
また、登記の変更を怠ると、売却時や融資審査の際に手続きが滞るおそれがあり、不利益を被ることもあります。さらに相続の場面では、登記簿と住民票の情報が一致しないことで、住所や氏名の変遷を証明する必要が生じ、以下のような追加書類の提出が求められます。
- 戸籍の附票や住民票の除票
- 改製原戸籍などの過去情報に関する証明書類
- 変更履歴の連続性を示す各種証明書の取り寄せ
これらをそろえるには手間と時間がかかり、結果的に相続登記の手続き全体が複雑化する可能性があります。トラブルを未然に防ぐためにも、変更があった際は速やかに登記を行うことが望ましいでしょう。
不動産仲介業務で押さえておきたいポイント

不動産仲介業務においては、不動産登記法の改正に際して、取引前に登記情報を正確に確認することが不可欠です。売主が相続人である場合は登記簿を取得し、名義が被相続人のままになっていないかを確認します。相続登記が未了であれば取引は進められないため、売主に登記手続きの必要性を伝えましょう。加えて、司法書士への相談を促すこともポイントです。状況に応じて相続人申告登記の活用も検討します。
また、2025年4月から義務化された「検索用情報の申出制度」への対応も欠かせません。仲介会社は契約前に、生年月日・フリガナ・メールアドレスといった情報を確実に取得しておきましょう。そして、司法書士に正確に共有する体制を整える必要があります。情報不足や伝達ミスは手続きの遅延や決済トラブルの原因となります。社内で申出書や本人確認資料の統一フォーマットを整備し、担当者間で対応のばらつきをなくすことが大切です。
さらに、2026年4月からは氏名・住所変更登記の義務化が始まります。取引時には登記簿と本人確認書類の照合を欠かさず行いましょう。不一致があれば変更登記の必要性を顧客に説明し、完了後に契約を進める体制を徹底します。将来的に職権登記が導入されることを見据え、検索用情報の申出も同時に案内することで、より円滑な取引が可能となるでしょう。
こうした対応を属人化させず、誰が担当しても一貫した運用を可能にするには、社内共有の円滑化が欠かせません。そのためには、不動産売買業務のデジタル化が有効です。『いい生活売買クラウド One』は、顧客情報や登記関連の進捗をクラウドで一元管理できます。これにより、対応のばらつきや確認漏れのリスクを減らし、制度改正への確実な対応を組織的に進めることができるでしょう。
不動産登記法改正への対応体制を整え、実務上のリスクを回避しよう

今回の不動産登記法の改正では、相続登記や住所・氏名変更登記の義務化、検索用情報の申出制度などが変更となりました。実務に直結する新ルールが次々と施行されます。これらの制度は、所有者不明土地の防止と円滑な取引を実現するための重要な仕組みです。
不動産仲介業務においては、取引前の登記情報の正確な確認がこれまで以上に重要になります。不備があれば過料の対象となるだけでなく、決済トラブルや取引の停滞を招く恐れがあります。
こうしたリスクを避けるには、不動産登記法改正への対応を社内で統一することが大切です。属人化を排し、誰が担当しても一貫した対応ができる体制を整えることが求められます。そのためには、『いい生活売買クラウド One』などのツールを活用し、顧客情報や登記進捗の一元管理が有効です。制度理解を組織全体で共有し、実務フローに落とし込むことで、改正への確実な対応と顧客満足の両立を実現させましょう。