賃貸物件を管理する不動産会社にとって、「賃借人」の役割や賃貸人との関係を正しく理解することは非常に重要です。特に、賃借人の権利や賃貸契約に伴う義務を把握しておくことは、管理業務のポイントとなります。
そこで今回は、賃借人が持つ権利や義務、入居審査時に注目すべきポイントについて詳しく解説します。また、賃借人と契約を結ぶ際の注意点や、トラブルが発生した場合の対応策についても触れていますので、ぜひ最後までお読みください。
賃借人の意味や賃貸人との関係性とは?
賃借人とは、賃貸物件を借りる人、つまり借主のことを指します。一方、物件を貸し出している大家さんや不動産管理会社のことを「賃貸人」と言います。賃借人と賃貸人は、物件を借りる人と貸す人という関係にあります。
賃借人に生じる義務
賃借人が物件を借りる際に、以下3つの義務が生じます。
- 家賃の支払い
- 契約内容の遵守
- 原状回復
それぞれの義務について解説していきます。
家賃の支払い
賃借人は、物件を借りるために家賃を支払う義務があります。家賃は通常、前払いで請求されることが一般的です。例えば、1月分の家賃は12月末までに支払う必要があります。
契約で定められた期日までに家賃の支払いが行われない場合、それは滞納とみなされます。滞納が長引くと、内容証明郵便による督促や延滞損害金の請求を受けることがあります。それでも支払いがない場合は最終的に提訴され、強制退去などの措置が取られる可能性もあります。
契約内容の遵守
賃借人が賃貸人から物件を借りる際には、賃貸借契約が結ばれます。賃借人には、この契約内容を遵守する義務があります。
賃貸借契約では、家賃の支払いはもちろん、共用部の使用や管理に関する規定、日常生活におけるルールも守らなければいけません。特に、アパートやマンションなどの集合住宅では、これらのルールを守らないと他の住民に迷惑をかける可能性があります。
賃借人が契約に違反した場合には、抗議文の送付や違約金の請求が行われることがあります。また、状況によっては、家賃滞納と同様に強制退去などの措置が取られることもあるでしょう。
原状回復
賃借人が物件を退去する際には、物件を借りたときの状態に戻して賃貸人に返還する義務があります。これは、賃借人の過失によって生じた傷や汚れ、または変更を加えた箇所がある場合に必要となります。例えば、部屋の掃除を怠った結果、クロスにカビが発生したり、賃借人が喫煙してヤニ汚れが付着したりした場合がこれに該当します。
賃貸人は退去後にクリーニングなどの原状回復作業を行い、その費用は通常、契約時に支払われた敷金から差し引かれますが、もし敷金で費用が足りない場合は、賃借人にその不足分が請求されることがあります。逆に、敷金が余った場合は、賃借人にその余剰分が返還されます。ただし、経年劣化や自然な損耗による部分については、賃借人が原状回復を行う必要はありません。
賃借人の権利は賃貸人よりも強い傾向にある
賃借人は、賃貸人から借りた物件に対してさまざまな義務を負う一方で、法律によって強く保護されています。そのため、賃借人の権利は賃貸人よりも優先される傾向があります。例えば、賃貸人が賃借人に退去を求める場合でも、正当な理由がなければ退去を強制できません。
ここで言う「正当な理由」とは、借地借家法第28条に定められた5つの要因を指します。
- 賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情
- 賃貸借に関する従前の経過(賃貸人と賃借人が契約を結ぶ際のやり取り・経緯)
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 賃貸人から賃借人に対する立ち退き料の提供
特に重要視されるのは、賃貸人と賃借人のどちらが建物を使用する必要が高いかという点です。これにより、双方の事情を比較し、どちらが優先されるべきかが判断されます。
ただし、賃貸人の権利が強くなる場合もあります。それが「定期借家契約」です。定期借家契約とは、契約期間が決まっており、その期間が終わると契約が自動的に終了する契約形態です。この契約では、契約期間満了後の更新が原則として認められません。
賃借人が定期借家契約で物件を借りた場合、契約期間が終了すると契約は終了し、更新はできません。再契約は可能ですが、その可否は賃貸人の判断に委ねられます。
賃借人が無断でできないこと
賃借人が物件を借りていることから、大家さんや不動産管理会社から許可をもらわないとできないこともあります。主に以下の3つは賃借人の判断で勝手に行って良いものではありません。
ペットの飼育
賃貸借契約や管理規約に「ペット飼育可」と記載されていない場合、賃借人が勝手にペットを飼うことはできません。ペットを飼うことで、物件に傷や汚れが増える可能性があり、さらに鳴き声やニオイが原因で近隣とのトラブルが発生するリスクも高くなります。
もし、ペットの飼育が禁止されているにもかかわらず飼育していることが発覚した場合には、違約金や原状回復費が請求されることが一般的で、まとめて請求されることが多いです。
また、ペット飼育が許可されている物件でも、複数のペットを飼うことが禁止されていたり、飼育できる種類や大きさに制限があったりする場合があります。ペット飼育が可能な物件でもトラブルが発生することがあるため、賃貸借契約書にはペット飼育に関する規約を細かく記載しておくことが重要です。
他人に借りている物件を貸す
賃貸借契約を結んだ人が、自分が借りている物件を他の人に貸す「転貸(また貸し)」は、原則として禁止されています。これは単に部屋を貸し出す場合だけでなく、使っていない部屋を旅行者に貸したり、コワーキングスペースとして利用させたりする場合も、転貸に該当する可能性があります。
また、入居者が複数いる場合も転貸とみなされることがあります。例えば、契約時にルームシェアをすることがわかっていたとしても、その後に住む人が入れ替わると転貸とみなされる場合があります。同棲していたカップルが別れ、片方が新しい恋人と再び同棲する場合も、賃貸人の許可が必要です。
転貸が禁止されているのは、契約者ではない他の人がトラブルを起こした場合、その解決が複雑になったり、契約者が責任を負わされたりする可能性があるためです。もし転貸が発覚すると、賃貸借契約の違反となり、賃貸人は賃借人に対して強制退去を命じたり、違約金を請求したりできます。
原状回復が難しいDIY
賃借人には、物件を借りた当初の状態に戻す「原状回復」の義務がありますが、原状回復が難しいDIYを行うと、基本的に規約違反とされます。例えば、壁にペンキで色を塗ったり、照明を増やすために配線を追加したりする行為がこれに該当します。また、柱や壁にネジで穴を開けて棚を取り付けるなども、原状回復が困難なDIYとみなされます。
賃借人の入居審査で注目するべきポイント
賃借人とのトラブルを未然に防ぐためには、入居審査での見極めが大切です。入居審査において注目するべきポイントは、以下の5つが挙げられます。
- 賃借人の職業
- 賃借人の年収
- 賃借人の家族構成
- 連帯保証人の支払能力
- 賃借人の人間性・人柄
それぞれ解説します。
賃借人の職業
賃借人の職業は、家賃の支払能力や信用度を把握するために重要な要素です。例えば、正社員と非正規雇用者を比較すると、一般的には正社員の方が雇用や収入が安定しており、家賃の支払能力が高いと考えられます。
しかし、非正規雇用者でも支払能力がないわけではありません。また、正社員で収入が安定していても、浪費などが原因で家賃を滞納することも考えられます。個人事業主や契約・派遣社員でも、事業や雇用が安定していれば問題なく入居できることが多いです。そのため、職業だけでなく他の要素も考慮して総合的に判断することが大切です。
賃借人の年収
賃借人の年収も確認する重要なポイントです。家賃は一般的に年収の25%程度が適正とされています。この割合はあくまで目安ですが、年収の25%を大きく超える家賃を設定すると、賃借人が支払いを続けることが難しくなり、最終的には家賃滞納のリスクが高まる可能性があるため注意が必要です。
また、年収を確認する際は、手取り額で判断するようにしましょう。入居申し込みに記載される年収は額面年収が多いですが、実際の生活費に影響を与えるのは手取り額だからです。
賃借人の家族構成
入居審査では、賃借人の家族構成にも注目することが重要です。家族構成や属性によって、入居期間が異なることがあるからです。
例えば、学生や単身世帯は比較的短期間で退去する傾向がありますが、ファミリー層は長期間にわたって入居する可能性が高くなります。
また、物件の間取りや広さに対して適切な家族構成でない場合、入居者間でトラブルが発生する可能性もあるため、慎重に判断することが大切です。
連帯保証人の支払能力
家賃の支払いができなくなった場合に備えて、連帯保証人を立てることが一般的です。しかし、連帯保証人にも十分な支払能力がなければ、その役割を果たせません。そのため、入居審査の際には連帯保証人の支払能力もしっかりと確認しましょう。
近年では、連帯保証人を立てられないケースが増えており、そのため家賃保証会社の利用を義務付ける物件も増加しています。
賃借人の人間性・人柄
賃借人の人間性や人柄も、入居審査でしっかりと確認することが重要です。例えば、生活ルールや共用部の使い方をきちんと守れそうか、反社会的勢力との関係がないかなどをチェックしましょう。
入居審査だけで人柄を完全に見抜くのは難しいですが、態度や言葉遣いが粗雑であったり、過度な要求をしたりしてくる場合は、慎重に判断する必要があります。
賃借人と賃貸借契約するにあたって注意すること
賃借人と賃貸借契約を行うにあたって、どのようなことに注意した方が良いのでしょうか?ここからは、賃貸借契約を結ぶ際の注意点を解説していきます。
解約予告の義務
賃貸借契約には、解約時に退去予定日を事前に通知する期限が定められており、通常、退去日の1カ月前までに予告する必要があります。
もし解約予告が遅れてしまうと、賃借人が本来支払う必要のない家賃や更新料が発生する可能性があります。解約予告の通知期限については賃貸契約書に記載されているため、賃借人に事前にしっかりと説明しておきましょう。
特約事項の説明
契約書には、賃借人と賃貸人の間で合意した内容を特約事項として記載できます。法律上、契約の内容は当事者同士で自由に決めることが許されているため、賃貸人は特約事項に自分が希望する条件を加えることが可能です。
ただし、特約事項の内容によっては賃借人にとって負担となる場合があるため、十分な説明を行い、同意を得ることが重要です。
賃借人とのトラブルが発生した場合は?
万が一、賃借人との間でトラブルが発生した場合、どのように対処していけば良いのでしょうか?ここからは、トラブル時の対応方法や注意点について解説します。
賃借人とのトラブルは放置しない
賃借人とトラブルが発生した際、面倒だからと放置すると、問題が長引いて解決がさらに難しくなる恐れがあります。このような問題の長期化は他の入居者にも悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
さらに、トラブルが原因で他の入居者が退去する事態が続けば、物件の収益にも悪影響を及ぼすことになります。そのため、トラブルが発生した際には、迅速かつ適切な対応が欠かせません。
現状を把握して対処にあたる
賃借人とのトラブルに対処する際は、まず現状を正確に把握することが重要です。状況を把握した後は、賃借人に対して口頭や書面で注意を促しましょう。
もし、それでも改善されない場合は、内容証明郵便を送付し、必要に応じて賃貸借契約の内容に基づいて契約解除などの措置を講じることが求められます。
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賃借人に関する義務や権利、そして入居審査で注意すべきポイントについて解説しました。賃借人については賃借人が理解しておくべきことはもちろん、賃貸人側も正しく把握しておくことが重要です。賃借人とのトラブルを未然に防ぐためには、入居審査や契約時に丁寧な説明を行うことが不可欠となります。
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