
夜逃げによって生じる残置物の処理は賃貸人にとって、金銭的・時間的な大きな負担となります。また、残置物として残された家具やゴミ、家電製品などの処理は、適切な手続きを踏まなければ、法的トラブルに発展するおそれもあります。
この記事では、残置物への対応フローや撤去費用、明渡訴訟の流れ、さらにリスクを未然に防ぐための入居審査や家賃保証会社の活用、そして一連の業務を効率化するための手段について、不動産管理会社の実務の観点から解説しています。
夜逃げで生じる残置物とは?

「夜逃げ」とは、家賃の滞納や借金返済が困難であることなどを理由に、入居者が誰にも知らせずに物件を離れることを指します。賃貸物件においては、解約手続きを行わず、突然退去するケースが少なくありません。
このような場合、家賃の未払いに加えて、室内に家具や家電、生活ゴミなどが残置物として残されることが問題となります。残置物がある状態が続くと、次の入居者への物件の引き渡しが遅れる可能性もあります。空室期間が長引く原因にもなりうるでしょう。
また、夜逃げが発生すると、オーナーや管理会社は残置物の処分や撤去、未払い家賃の回収などのさまざまな対応を迫られます。そのため、残置物の処理方法や費用について事前に確認しておくことが重要です。必要に応じて法的手続きが必要になる場合もあるでしょう。
さらに、住宅・住戸が長期にわたって放置されれば、建物の劣化や衛生状態の悪化が進む懸念もあります。その結果として、物件の資産価値が下がるといった可能性もあるため、速やかな対応が求められます。
夜逃げで生じた残置物の取り扱いの注意点

夜逃げにより発生する残置物への対応は、賃貸管理におけるリスクの1つです。無断で部屋に立ち入ったり、許可なく残置物を処分・撤去したりすると、所有権の侵害と見なされるおそれがあります。損害賠償や刑事責任につながる可能性もありますので、慎重な対応が求められます。
たとえ契約が終了していたとしても、残置物の処理には法的手続きが必要です。また、処分費用がかかることもあるため、対応方針をあらかじめ決めておくこともポイントになります。
ここでは、夜逃げで生じた残置物の取り扱いに関する注意点を解説します。
賃借人(借り手)の権利
入居者が夜逃げをした場合であっても、賃貸借契約が有効な限り、居住権は残っていると判断されます。そのため、室内に誰もいないことがわかっていたとしても、賃借人の同意なしに室内に立ち入ることは許されません。プライバシーの観点からも慎重な対応が必要です。
また残置物は2種類に分けられます。貸主の了承を得て置かれたものと、無断で残されているものです。前者は貸主に所有権が移りますが、後者については元の賃借人に帰属したままとなります。そのため、無断で残置物を処分・撤去できません。
もし勝手に処理してしまえば、損害賠償を請求されるリスクがあります。場合によっては、器物損壊罪に問われる可能性も否定できません。
そのため、適切な残置物処理を行うためには夜逃げをした賃借人に連絡し、確認することが必要です。その際、撤去や所有権の放棄についての合意を得ることが望ましいです。次の入居者を迎え入れるためにも、残置物を円滑に処理することが求められます。
賃貸人(貸し手)の権利
賃貸借契約が終了し、借主が部屋を明らかに放棄していると判断できる場合には、貸主が残置物を処分できることがあります。ただし、処分が認められるのは一定の条件を満たすときに限られるため、状況を丁寧に見極めることが重要です。
たとえば、賃料の滞納が数か月におよび、借主と連絡がとれないまま姿を消した場合などが該当します。このような場合、貸主には契約を解除する権利が発生することがあります。ただし解除にあたっては、借主に対して事前に正式な通知を送付しなければなりません。
借主が夜逃げしたとしても、貸主は未納家賃の回収を請求できます。なぜならば、家賃の支払い義務は契約終了後も残るためです。保証会社を通じて請求したり、必要に応じて法的手続きなどによって回収を図ることも可能です。
撤去費用は誰が負担するか
本来、借主には原状回復義務がありますので、残置物の撤去費用は賃借人が負担すべきです。一方で、次の入居者を早く迎え入れる必要がある場合は、貸主側が費用を負担して残置物を処分するケースもあります。
残置物が家具や家電の場合、処分費用は比較的高額になる傾向にあります。敷金が残っていれば、そこから差し引くこともできますが、足りない場合は賃貸人が立て替えなければなりません。なお、連帯保証人に請求することも認められています。
残置物の処分費用は、量や種類によって異なります。相場として、1㎥あたり5,000〜15,000円程度をみておくと良いでしょう。1LDKの物件なら、5〜10万円ほどが一般的です。
残置物が処分されるまでの流れ

夜逃げが発生した場合、法的リスクを避けつつ、賃貸人として適切な対応をとる必要があります。入居者との連絡から始まり、内容証明の送付、訴訟や強制執行といった段階を踏んだ対応が不可欠です。
ここでは、夜逃げ後に発生した残置物を適切に処理するための具体的な流れを、5つのステップに分けて解説します。
1.賃借人に対して繰り返し連絡を試みる
夜逃げが疑われる状況では、賃借人と連絡がとれなくなってしまうことがほとんどです。しかし、そういったケースであっても、電話・メール・書面などあらゆる手段で連絡を試み、入居者の意思や状況を確認するようにしましょう。
連絡に応答があった場合は、未払い分の家賃支払いを促します。支払いに応じない場合は、連帯保証人への請求を行う可能性があることを伝えましょう。こうしたやり取りを重ねておくことは、残置物の処分や撤去、さらには賃貸物件の明渡処理を進めるうえでも重要です。
2.連帯保証人に連絡する
入居者からの返信がなく、家賃の支払いも確認できない場合は、まず連帯保証人の有無を確認します。連帯保証人がいる場合は、未納家賃の支払いについて連絡をとり、督促を行います。
その際、保証人に対して夜逃げしたことは直接伝えないようにしましょう。「最近連絡がとれず、安否確認も兼ねてご連絡しています」といった表現に留めることが望ましいです。
夜逃げで残置物があるケースでは、入居者にプレッシャーがかかりすぎてしまうと、連絡を完全に断たれてしまうおそれがあります。適切な配慮をもって対応し、その後の残置物処分や契約解除手続きの円滑化につながるようにしましょう。
3.配達証明を付けて内容証明郵便を送付する
入居者と連絡がとれない状況が続いている場合は、次の手段として催告を行います。催告とは、相手に対して一定の行為を求める正式な通知のことです。
催告を通じて、賃貸借契約の継続意向の確認、滞納家賃の支払いなどを求めます。連帯保証人がいる場合は、同じ内容の催告を保証人に対しても行います。
通常、夜逃げによって連絡が途絶えたとしても、賃貸借契約は継続しているため、月々の家賃は発生し続けています。そのため、滞納家賃の督促は、内容証明郵便と配達証明を付けて送付するようにしましょう。
とりわけ、夜逃げで残置物があるようなケースにおいては、書面による証拠の残し方が重要です。内容証明郵便と配達証明で支払い期日を明示するようにしましょう。そのうえで、期日までに入金がない場合は賃貸借契約を解除する意思があることも併せて伝えます。
内容証明郵便は、後に明渡訴訟へ進んだ際、賃貸人側にとって有利な証拠となります。そのため、手続きを進める際には、法律に詳しい専門家、夜逃げや残置物処理に対応している保証会社に相談すると、円滑に進めることができるでしょう。
4.明渡訴訟を提起する
内容証明郵便に記載した期日までに支払いが確認できない場合、明渡訴訟の提起に進みます。これは、賃貸借契約の解除に加えて、物件の明け渡しを求める法的手続きとなります。
併せて、滞納家賃の支払い請求と、残置物の処分を目的とした強制執行も求めることも可能です。なお、金額が60万円以下で、家賃の支払い請求のみを行う場合は少額訴訟も検討しましょう。少額訴訟は通常よりも早く判決が出る傾向にあります。
一方、夜逃げした賃貸物件に残置物があるケースでは、強制執行を含めた通常訴訟が必要になります。通常訴訟は、費用の負担が大きく、判決までの時間がかかることがデメリットです。事前に弁護士や保証会社などに相談し、慎重に対応を検討するようにしましょう。
審理が進み、賃貸人側の主張が認められた場合、裁判所から物件の明渡命令が出されます。この時点から、残置物による賃貸物件のトラブル解決に向け、賃貸人が正当に明け渡しの請求を行えるようになります。
5.強制執行の申し立てをし、残置物を処分する
明渡訴訟で賃貸人の主張が認められた場合は、裁判所の許可を得たうえで、強制執行の申し立てが可能になります。この手続きを経ることで、法的に物件の明け渡しを実現することが可能です。
賃貸人は、裁判所の執行官に対して物件の明け渡しと残置物の処分を依頼します。執行官が現地に赴き、状況を確認したうえで、適切な手続きを進める流れです。
残されていた家具や家電などの残置物は撤去され、必要に応じて処分されます。これらの作業には費用がかかるため、賃貸人が立て替えるのが一般的です。
後日、夜逃げをした入居者に対して残置物の処分費用を請求します。残置物の内容によっては、価値が認められることもあり、競売にかけられるケースもあります。
いずれにせよ、次の入居者を早期に迎えるためには、対応を先延ばしにしないことが重要です。夜逃げが発覚した時点から、速やかに行動を開始するようにしましょう。
夜逃げのリスクを軽減するための対策

夜逃げによる残置物トラブルは、発生後の対応だけでなく、事前の備えがポイントです。賃借人の信用調査や保証人の設定、家賃保証会社の活用など、入居前・契約時の対策がしっかりしていれば、万一の事態でも慌てずに対応できるでしょう。
ここでは、夜逃げリスクを軽減するための予防策と実務のポイントを解説します。
入居審査を徹底する
夜逃げによる残置物のリスクを軽減するためには、入居前の審査段階での対応が重要になります。
まず、賃借人の信用調査を丁寧に行いましょう。収入状況や勤務先、過去の賃貸履歴などは必ず確認しておくべき項目です。特に、以前の住まいにどれくらいの期間住んでいたか、引っ越しの理由や職歴といった情報も参考になるでしょう。これらは入居審査時の面談などで、本人から直接ヒアリングします。
また、賃貸借契約の締結時に連帯保証人を設定することで、万が一の家賃滞納に備えることができます。保証人の存在は、賃貸人側の負担を大きく減らす手段の1つです。
家賃保証会社を利用する
家賃保証会社の利用も、夜逃げや滞納リスクへの有効な備えとなります。家賃保証会社を利用していれば、滞納家賃の立て替え払いを受けることも可能です。賃貸人のキャッシュフローへの影響も最小限に抑えられるでしょう。
さらに保証会社によっては、夜逃げによる残置物の処分費用や、明渡訴訟にかかる費用も補償対象としている場合があります。このような仕組みを活用することで、残置物による賃貸トラブルの実務的な負担は大きく軽減されるでしょう。
そのため、賃貸借契約を締結する際に家賃保証会社の加入を義務付けておくと、いざという時にも安心です。契約書にその旨を定めておけば、家賃回収やトラブル対応を保証会社に委任できます。なお、保証会社の利用にかかる費用は、基本的に入居者負担となりますので、事前の説明と合意形成が重要です。
なお、保証内容や補償上限額は保証会社ごとに異なりますので、あらかじめ条件を比較検討したうえで、選定を進めていきましょう。
家賃保証会社を利用する際のポイント
家賃保証会社を利用する場合は、入居者が審査を通過できることが、利用の前提となります。そのため、入居希望者が審査に落ちた場合は、別の保証会社を探す手間が生じ、業務負担が増加する可能性があります。
さらに、審査に時間がかかりすぎると、入居希望者が申し込みを断念してしまうケースもあるでしょう。保証会社の審査不合格が続けば、空室期間が長引き、オーナーさまの機会損失につながる可能性が高まります。
こうした事態を防ぐためには、入居申込のプロセスをデジタル化することが有効です。申込手続きをオンライン化することで、審査の円滑化、業務効率化につながります。
賃貸業者間流通サイト『いい生活Square』は、空室募集から内見・申込・賃貸管理までの一連の業務を円滑化し、リーシング業務を支援するサービスです。内見予約や入居申込をすべてWeb上で完結させることができます。家賃保証会社とのやり取りも、インターネットFAXやAPI連携を通じて円滑に進めることが可能です。
夜逃げによる残置物のリスクを回避し、効率的な賃貸管理業務を実現しよう

ここまで、夜逃げがあった場合の残置物の対応について、不動産管理会社の業務におけるポイントについてまとめました。
夜逃げで残置物が発生した場合は、無断で処分せず、法的手続きを踏んで対応することが大切です。その一方で、明渡訴訟や強制執行などの法的手続きには時間と費用がかかりますので、事前対策としての入居審査の徹底が求められます。
入居審査のポイントとしては、連帯保証人の設定や、家賃保証会社の利用が効果的です。その一方で、入居の審査が滞ると空室の長期化につながるリスクもあるため、注意が必要です。
これらのリスクは、申込・審査の流れをデジタル化し、契約までのプロセスを円滑化することで軽減できます。賃貸業者間流通サイト『いい生活Square』を活用し、効率的な管理体制を構築すれば、夜逃げによる残置物リスクを軽減する一助にもなるはずです。ぜひ、ご検討ください。