
顧客ニーズの多様化とオンライン化の流れを受け、不動産取引における重要事項説明も「IT重説」への対応が求められる時代になりました。
そこで今回は、IT重説の基本知識から、導入・運用にあたっての具体的な手順、注意点まで、実務に即した内容を体系的に解説します。スムーズな導入・運用に向けた一助となれば幸いです。
IT重説とは?

IT重説とは、パソコンやスマートフォンなどの端末を使うWeb会議システムで、対面と同じように重要事項説明を行うことです。対面時と同様、宅地建物取引士が担当し、賃借人や買主には事前に重要事項説明書を交付することが条件となります。
IT重説は、遠方の顧客や外出が難しい顧客とも商談や契約ができることが特長です。また、日程調整がしやすく、録画で記録を残せることなども利用が広がっている理由と考えられます。
IT重説が導入された経緯
従来の重要事項説明は、対面で行う必要があるため、不動産会社などへ顧客が出向く必要がありました。その際にかかる移動時間や交通費が負担となり、検討を断念するというケースも少なくありませんでした。
しかし、2017年の法改正でIT重説が認められたことで、場所と時間を選ぶことなく、重要事項説明を受けることが可能になっています。現在では、インターネットを通じて重要事項説明を行うことが広く普及しつつある状況です。
重要事項説明書の電子化が認められた理由
重要事項説明書は、お客さまに物件の状態を詳しくお伝えするものです。不動産取引におけるトラブルを防ぐために重要な書類のため、宅地建物取引業法によって紙の書面での交付が義務付けられていました。法改正以前もIT重説は可能でしたが、郵送での書面のやりとりが必須で、オンラインで完結することができない状態でした。
しかし、2022年5月に宅建業法が改正されたことで、重要事項説明書の電子化が認められるようになりました。この背景には、2021年9月に施行されたデジタル改革関連法があります。この法律によって、さまざまな書類の電子化が推進され、その流れを受けて不動産業界でも電子契約が進められるようになったのです。宅建業法や借地借家法といった主要な法律で電子契約が認められるようになり、重要事項説明書も適用されています。
電子での交付が正式に認められたことで、IT重説の利便性は飛躍的に向上しました。書類の準備、送付から保管まで、すべてをデジタルで完結できるようになり、実務においてより現実的な選択肢となりました。
IT重説のメリットとは?

IT重説は、場所・時間を選ばずに重説を受けられるため、顧客と不動産会社の双方の負担を大幅に軽減することが可能です。以下では、IT重説がもたらすメリットについて解説します。
対面不要で実施する場所を選ばない
IT重説のメリットの一つは、対面での手続きが不要で、実施する場所を問わないことです。インターネットの環境さえ整っていれば、時間や場所の制約から解放されます。
例えば、育児や介護で外出が難しい方にとって、自宅で重説を受けられることは大きな助けとなるでしょう。遠方にお住まいの方がわざわざ不動産店舗に出向く必要もなくなります。また、物理的な移動がなくなることで、移動にかかる時間や交通費といったコストも削減できるはずです。
不動産会社にとっても場所の制約がなくなることは大きな利点といえるでしょう。遠隔地にいる顧客への対応が容易になるため、商圏外での集客の可能性が広がります。
顧客の手間と業務の無駄を省ける
IT重説では、重要事項等説明書を事前に顧客へお送りする必要があります。これにより、顧客は自身のペースで、契約内容や物件に関する重要な情報を事前に確認することが可能です。結果として、疑問点や不明点などを整理した上で重説に臨めるようになり、やりとりがスムーズに進むようになるでしょう。
重説にかかる時間を大幅に短縮できることは、顧客だけでなく、不動産会社にとっても業務効率化のメリットがあります。重説にかかっていたリソースをより効果的に活用し、コア業務に注力することで、生産性をさらに高められるはずです。
不動産業務の生産性を高めるためには、不動産業務支援ツールの活用も有効です。『いい生活賃貸クラウド One』、『いい生活売買クラウド One』は、賃貸・売買それぞれの業務のデジタル化を支援するサービスです。IT重説に欠かせない契約書や重要事項説明書のほか、取引台帳の作成・管理の手間やコストの削減といった不動産業務の効率化をサポートします。
録音・録画によってリスクを軽減できる
IT重説の内容を録音・録画しておけば、証拠として残すことができます。これにより、退去時などに「説明した・していない」といったトラブルが起きにくくなることもメリットの一つです。
その一方で、録音・録画には個人情報が含まれる可能性がありますので、適切な管理が必要です。国土交通省の「賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明実施マニュアル概要」に沿った対応で、リスクを抑えながら重説を実施しましょう。
IT重説を録音・録画する場合の注意点は以下の通りです。
- 事前に双方の合意を得る
- 録音・録画の利用目的を明確に伝える
- 不適切な情報が含まれる場合は録画を一時停止する
- 個人情報保護法に従い、適切に管理する
- 顧客から求められた場合は、録音・録画の複製を提供する
IT重説対応物件とは

インターネット環境が整っているからといって、すべての物件でIT重説ができるわけではありません。まず、不動産会社側でIT重説を実施できる体制の整備が必要です。そして、売主や貸主からIT重説の実施について同意を得る必要もあります。
これらに加えて、重要事項説明書の事前送付や、宅地建物取引士証の提示も必要です。これらの条件がそろわない場合、IT重説を行うことはできません。
IT重説に対応できるかどうかは、物件ごとの状況や売主・貸主の意向、不動産会社の準備体制などに左右されるといえるでしょう。
IT重説の流れ

IT重説は、ただオンラインで説明をすればよいというものではありません。契約者にとっても不動産会社にとっても手順に沿って確実に進める必要があります。そのためにも事前準備と段階的な対応が大切です。ここでは、実際にIT重説を実施する際の基本的なステップを順を追って整理していきます。
契約者側のネット環境を確認する
IT重説を実施するためには、自社と顧客の双方でネット環境を事前に確認しておくことが重要です。
借主・買主に対して、IT重説に必要なマイク・カメラ・スピーカー機能などを備えた端末の保有を確認しておきましょう。併せて、IT重説時に使用するアプリのダウンロードなども必要に応じて促します。
また、オンラインでのやりとりで不具合が生じないよう、常時安定したインターネットの接続環境を整えておく必要があります。接続環境が悪い場合、映像や音声が途切れ、重説の内容が伝わらない可能性がありますので、注意が必要です。
他にも、IT重説では不動産取引に関わる個人情報も取り扱うため、セキュリティ面への配慮も欠かせません。フリーWi-Fiスポットの使用は避けるなど、顧客への注意喚起も欠かさないようにしましょう。
接続テストを行う
双方のネット環境の確認が完了したら、日時を決めて事前にテスト通信を行います。画面を通じて書面がはっきりと読み取れるか、音声がクリアに聞こえるか、双方向のやりとりに支障がないかなどを確認しましょう。安定した通信が確保できない場合は、接続機器を変える、場所を変える、有線接続を検討するなどの対策が必要になります。
顧客がスマートフォンを使用する場合、携帯電話の契約内容によっては、通信量が一定を超えると速度制限がかかることがあります。テレビ電話は通信量が想定以上に増えるケースもあるため、事前にデータ容量の確認を行っておくよう伝えておきましょう。
万が一、IT重説当日に通信トラブルが発生した場合に備え、事前に連絡手段(電話や別のオンラインツールなど)を確認しておくなど、柔軟に対応できる体制を整えておくこともポイントの一つです。
書類一式を契約者に発送する
事前のテストで、IT重説を問題なく実施できる状態であることが確認できたら、契約者に書類一式を送付します。重要事項説明書は事前に内容を確認してもらう必要があります。そのため、IT重説の前日までに到着するように発送しましょう。
各書類には宅地建物取引士による記名押印が必要となります。IT重説を開始する際に顧客の手元に書類が届いていない場合は、IT重説を行うことができません。
また、顧客からIT重説に関する同意を得ることも大切です。というのも、顧客によっては対面での説明や契約を希望する場合もあるからです。IT重説に対する意向の確認や同意の取得については、書面に残しておくようにしましょう。
IT重説を実施する
ここまでの準備が完了したら、IT重説の本番となります。対面・オンラインの違いはありますが、内容は従来の重説と変わりません。宅地建物取引士証を提示し、顧客が認識したことを確認してから開始します。
一方、説明を受ける顧客が契約者本人であることを確認することも必要です。面識がほとんどない方の場合は、運転免許証などの顔写真付きの本人確認書類で本人確認を行います。
IT重説自体は、契約者の同意を得た上で録画・録音をしながら、物件や契約内容などについて丁寧に説明を進めていきます。契約についての疑問や不明点などがあれば回答し、齟齬や相違を解消していきます。
契約者が署名捺印または電子署名をする
IT重説が完了したら、その内容について契約者に相違点や疑問点がないことを確認しましょう。問題がなければ、重要事項説明書に署名捺印し、自社宛てに返送してもらうよう伝えます。その際、署名済みの賃貸借契約書、売買契約書などがあれば同封するよう伝えましょう。
重要事項説明書および契約書が電子化されている場合は、電子署名を付与し、電子メールやWeb上で返信を受けます。なお、署名捺印や電子署名に不安があるという方も少なくありません。事前に手順を説明し、対応できるようにサポートしましょう。
返信を受領後、内容に不備がなければ手続きは完了です。契約者に鍵を発送し、入居となります。
IT重説を実施する際に気をつけること

IT重説を実施するには、対面の重説と同様に守るべきルールや準備があります。ここでは、宅地建物取引士の資格要件から顧客の同意取得、書面送付、通信環境の整備まで、IT重説をトラブルなく進めるためのポイントをわかりやすく解説します。
宅地建物取引士の資格が必要
IT重説を行う担当者は、従来の重説と同様に宅地建物取引士の資格が必要です。
重要事項説明は宅地建物取引業法に基づき、取引士のみが行える行為と定められています。そのため、IT重説に入る前には必ず宅地建物取引士証を提示し、顧客に確認してもらう必要があります。
取引士証の提示は画面越しであっても、氏名や登録番号などの記載内容がはっきり読み取れるように行わなければなりません。画面がぼやけていたり、照明が反射していたりして確認できない場合はカメラの位置や角度を調整する必要があります。
なお、取引士証の提示と確認が必須であることは、事前に顧客に伝えておくとスムーズに進められるでしょう。
宅地建物取引士については以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
関連記事:宅地建物取引士の難易度は?出題範囲や合格のためのポイントも解説
IT重説の同意を得る
重要事項説明には、対面による方法とIT重説の2通りがあります。どちらを選ぶかについては、顧客の意向が最優先となります。
顧客の意向を確認する方法には明確な取り決めはありません。しかし、トラブルを防ぐためにも、書面などで記録を残しておくようにしましょう。
IT重説は画面越しでの説明となるため、対面に比べて相手の理解度を把握しにくくなりがちです。そのため、「ちゃんと説明を受けたのか」「本当に理解していたのか」について後から争いになるリスクが比較的高くなります。
こういった事態に備えるためにも、「IT重説を実施すること自体に事前に同意を得た」ことを記録として残しておく方が望ましいといえるでしょう。
重要事項説明書等は事前に送付する
IT重説の前日までに重要事項説明書やその他の資料を顧客に送付する必要があることは前述の通りです。この場合の送付方法は、郵送やFAXのほか、電子書面による送付も可能です。
電子書面とは、PDFなどの形式で作成された電子ファイルを指します。紙の書面と同様に取り扱うことが認められていますが、利用にあたって、事前に顧客の同意を得ることが必要です。
電子書面を送付する際は、誤送信による情報漏えいのリスクがあります。宛先のメールアドレスを正確に確認することが重要で、送信前にダブルチェックを徹底しましょう。加えて、ファイルにパスワードを設定するなどの対策が欠かせません。
送付後は、顧客に対して受領確認を行い、正しく資料が届いていることを確認することも有効です。
通信環境を整える
IT重説を滞りなく実施するためには、質疑応答ができる双方向性のあるIT環境が必要です。そのためには、ビデオチャットなどのアプリやサービスを活用し、カメラやマイクなどの機器も準備しておく必要があります。
通信環境が整っていない場合、状況によっては、IT重説を中断しなければならなくなってしまいます。別日に再度実施するといった二度手間を防ぐためにも、IT重説に対応した専用ツールを活用することをおすすめします。
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特にスマートフォンの場合、SMSで送信されるビデオ通話用URLをタップするだけでビデオ通話を開始することが可能です。URLをメールで送るといった準備が不要で、スムーズにビデオ通話を開始することができます。
IT重説で顧客満足度の向上と業務効率化を実現しよう

IT重説は、オンラインで重要事項説明を行うもので、顧客と不動産会社の双方に多くのメリットをもたらします。顧客は移動の手間や時間を削減できますし、不動産会社は、遠隔地の顧客にビジネスチャンスを広げることが可能です。日程調整の柔軟性も向上しますので、業務効率化も期待できます。
一方で、IT重説を滞りなく実施するためには、IT重説を実施できる環境の整備が欠かせません。『いい生活賃貸クラウド One』や『いい生活売買クラウド One』、『いい生活 ビデオトーク』など、不動産業務のデジタル化を推進するサービスを活用することで、IT重説を効果的に運用できるようになります。ぜひ、導入をご検討ください。