不動産経営を法人化すると、節税や相続税対策に役立ちます。ただ、メリットやデメリットがあるため、法人化が必要かどうかは慎重に見極める必要があるでしょう。
そこで今回は、「法人化したほうがよいケース」「法人化しなくてよいケース」を紹介し、法人化のメリット・デメリットや法人設立の手順を紹介します。
不動産経営を法人化したほうがよいケース
不動産経営を法人化したほうがよいケースは、年間の合計所得が900万円を超えるような場合です。年間所得が900万円を超えると、所得税より法人税のほうが、税率が低くなります。
しかし、ここで注意すべきなのが「合計所得」であるという点です。つまり、不動産所得が300万円でも、ほかの所得が合計600万円以上なら法人化したほうがよいといえるでしょう。
不動産経営を法人化しなくてよいケース
不動産経営を法人化しなくてよいケースは、年間の合計所得が900万円以下で、相続税や贈与税の対策をしない場合です。個人の年間所得が900万円以下なら、法人税より所得税の税率が低くなるため、法人化するメリットはありません。
また、法人化すると設立費用や運営費用がかかりますし、不動産の名義変更にも税金が発生します。したがって、法人化するデメリットのほうが大きいといえるでしょう。
ただし、年間所得が900万円以下でも不動産の資産価値が高く、将来的に相続税や贈与税の負担が大きくなる可能性がある場合は、法人化を検討する必要があります。
不動産経営を法人化するメリット
不動産経営の法人化には、さまざまなメリットがあります。ここでは、以下7つのメリットを紹介します。
- 個人よりも税率が低い
- 経費で認められる範囲が広くなる
- 相続税対策につながる
- 相続資産として分割しやすい
- 家族に所得を移転しやすい
- 繰越欠損金の期間が長い
- 本人以外が経営できる
個人よりも税率が低い
法人化することで、税率を下げられる可能性があります。上述したとおり、一定以上の所得があれば法人税のほうが税率は低くなるためです。
まず、所得税の税率を紹介します。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
法人税の場合、税率は15.0~23.2%です。
所得金額が900万円以上になると、所得税の税率は33%です。一方、法人税の税率は15.0~23.2%となります。このように、一定の所得が見込める場合、法人化することで節税につながる可能性があります。
経費で認められる範囲が広くなる
法人化すると、個人事業主として賃貸経営する場合より経費で認められる範囲が広くなります。たとえば、次のような支出が経費として認められる可能性があります。
- 経営者の給与、賞与、退職金
- 法人を契約者とした場合の生命保険料や社会保険料
- 福利厚生費用
- 健康診断費用
- 出張手当
- 社宅制度を利用した場合の住宅費 など
このように、経費で認められる範囲が広くなるため、節税が期待できるでしょう。
相続税対策につながる
個人で不動産を所有していた場合、亡くなってしまうと、相続税の評価は不動産に対して発生します。一方、法人で不動産を所有していた場合、評価されるのは不動産ではなく株式です。
非上場の株式は「類似業種比準価額」を用いて評価されることがあります。類似業種比準価額とは、同じ業種の上場企業を参考に株価を評価する方式です。
類似業種比準価額は不動産で評価される場合よりも評価額が少なくなることもあり、相続税を少なくできる可能性があるでしょう。ただし、設立後3年間は別の評価方式である「純資産価額方式(※)」で評価され、評価額が高くなってしまう場合もあるため、法人化は早めに準備しておくことが大切です。
(※)純資産価額方式とは、会社の資産と負債の差額(純資産)を株式の数で割って、1株あたりの価値を求める方法。
相続資産として分割しやすい
個人で亡くなった場合、相続の対象は不動産ですが、法人で所有している場合、株式が対象となります。株式は数字で表せるため、不動産よりも相続資産として分割しやすくなります。
たとえば、相続人が5人いる場合に株式の枚数が500枚だった場合、それぞれに100枚ずつ分けることが可能です。不動産の場合、5分割することは容易ではありません。
このように、遺産分割の過程で生じがちな問題が軽減され、相続がスムーズに進む可能性があるでしょう。
家族に所得を移転しやすい
法人化すると、家族に所得を移転しやすくなります。家族を役員にし、報酬を支払うことができるためです。
個人の場合、生前中に不動産収入を移転すると贈与となってしまいます。しかし、法人化している場合、不動産収入を役員報酬という形で報酬を与えれば、贈与には該当しません。
繰越欠損金の期間が長い
法人化すると、不動産経営における繰越欠損金の利用期間が長くなります。個人の場合と法人の場合の利用期間は以下のとおりです。
- 個人の場合:欠損金が発生した事業年度の翌年度から3年間
- 法人の場合:欠損金が発生した事業年度の翌年度から10年間
繰越欠損金の利用期間が長くなると、節税につながります。
たとえば、今年度の損益が80万円の黒字だった場合、80万円に対する税金を支払わなければなりません。しかし、前年度が50万円の赤字だった場合、繰越欠損金を利用することで80万円-50万円となり損益が30万円の黒字になります。
法人化すると繰越欠損金が10年になるため、最大で10年前の赤字を繰越欠損金として利用することが可能です。
本人以外が経営できる
不動産経営の法人化には、本人以外が経営できるというメリットもあります。個人事業主の場合、不動産経営に関するすべての業務を自分で行わなければなりません。しかし、法人の場合は、役員や従業員に業務を委託できるのです。
たとえば、不動産の管理や賃貸契約の締結などの業務を、専門家に任せられます。これにより、本人は不動産経営にかかる時間や労力を削減することが可能です。また、本人が高齢になったり、病気になったりした場合でも、法人の存続や経営の継続が可能になります。
さらに、法人の場合は、株式の譲渡や増資などによって、経営者の交代や後継者の育成もしやすくなるでしょう。このように、不動産経営の法人化は、本人以外が経営できるというメリットがあります。
不動産経営を法人化するデメリット
不動産経営を法人化することには、いくつかデメリットがあることも把握しておかなければなりません。主なデメリットは以下のとおりです。
- 売却時の税率が高くなることもある
- 法人住民税を支払う必要がある
- さまざまなコストが発生する
それぞれ解説します。
売却時の税率が高くなることもある
不動産を売却する場合、タイミングによっては法人にすることで税率が高くなる可能性があるでしょう。
まず、個人で不動産を売却する場合、所有期間によって税率が変わります。
所有期間 | 所得税率 | 住民税率 |
---|---|---|
5年以下 | 30% | 9% |
5年超 | 15% | 5% |
参考:国税庁|No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
参考:国税庁|No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
一方で、法人の場合、所有期間は関係ありません。法人税率(2023年時点は23.20%)で計算されます。
5年以下の場合、法人のほうが税率は低くなります。しかし、5年超の場合、個人で売ったほうが有利といえるでしょう。
法人住民税を支払う必要がある
不動産経営を法人化すると、法人住民税の支払いが必須となります。法人住民税は、「法人税割」と「均等割」の2つに分かれています。
赤字の場合、法人税割を支払う必要はありません。一方で、均等割は赤字でも支払う必要があります。均等割の税額は次のとおりです。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割従業者数50人超 | 市町村民税均等割従業者数50人以下 |
---|---|---|---|
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万円超1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
参考:総務省|法人住民税
たとえば、資本金1,000万円以下の場合で従業員数が50人以下だと、2万円+5万円で7万円かかります。
さまざまなコストが発生する
不動産経営の法人化には、設立と運営のためにコストが発生します。主に次のようなコストが挙げられるでしょう。
- 法人の設立登記にかかる費用
- 社会保険への加入義務に伴う費用
- 税理士に支払う費用 など
たとえば、法人を設立する場合、約22万~24万円の設立費用がかかります。合同会社の場合は、6万~10万円程度が必要です。
また、法人化によって税務署の税務調査の対象となる可能性が高まるため、適切な会計処理が求められます。
不動産経営を法人化する手順
ここからは、不動産経営を法人化する手順を紹介します。一般的には、次のような流れで設立します。
- 法人の種類を決める
- 会社概要(社名等)を決定する
- 法人用の実印を作る
- 定款を作成する
- 登記書類を作成、法務局で設立登記を行う
- 法人の開業届、個人事業の廃業手続きを行う
それぞれのステップを詳しく解説します。
1.法人の種類を決める
まず、登記する法人の種類を決めていきます。法人は、株式会社や合同会社が選ばれることが大半ですが、「合資会社」「合名会社」などを選ぶことも可能です。
それぞれの法人は設立要件や手続き・費用などが異なりますので、それぞれの特徴を理解し、目的に合ったものを選ぶようにしましょう。
2.会社概要(社名等)を決定する
法人の種類が決まったら、次に会社の基本事項となる商号(社名)、本店の所在地、資本金額、発起人(出資者)、事業目的などの項目を決定します。
社名(商号)は既存の団体名やそれらを連想させる名称を使うことはできません。法務省の「オンライン登記情報検索サービス」や法務局の専用端末で類似する社名がないかを確認しておきましょう。
参考:オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査について
3.法人用の実印を作る
社名が決まったら法人用の実印を作成します。法人の実印は代表者印(会社実印)と呼ばれ、登記申請書に捺印するほか、本社の所在地を管轄する法務局登記所への登録が必要となります。なお、法人用の実印と併せて、法人の銀行口座開設に用いる銀行印、請求書などに押印する角印も一緒に作成しておくと手間を省くことができます。
4.定款を作成する
定款は、会社情報や会社運営におけるルールをまとめたもので、会社設立においては非常に重要な書類となります。
定款には会社名や所在地、資本金額などを記載します。とくに、絶対的記載事項と呼ばれる以下の5項目は必須項目となり、記載がないと無効になりますので注意が必要です。
- 会社名(商号)
- 事業目的
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名および住所
なお、定款作成は司法書士などの専門家に作成を依頼することが一般的です。
5.登記書類を作成、法務局で設立登記を行う
法務局での登記申請に必要な書類を作成します。必要になる書類は以下のとおりです。
必要な書類 | 内容 |
---|---|
資本金の払込証明書 | 定款に記した資本金が払い込まれていることを証明する書類です。払込証明書には、通帳のコピーを添付し、金融機関名・金融機関支店名・振り込みもしくは入金した金額がわかるようにします。 |
就任承諾書 | 役員本人が代表取締役への就任を承諾したことを証明する書類です。 |
役員全員の印鑑証明書 | 役員(発起人)の印鑑登録証明書です。発起人が複数人の場合は、全員の印鑑登録証明書が必要になります。 |
印鑑届出書 | 会社の実印登録のための届書です。 |
登記申請書 | 法務局のホームページで申請書のフォーマットをダウンロードできます。必要事項を記入して法務局に提出します。 |
登記申請の手続きはオンラインでも可能ですが、初めて登記する場合は、書類の内容や書式に不備がないかを確認・相談しながら進められるオフライン(対面)での手続きがおすすめです。
また、登記申請は代表者が行うことが基本ですが、司法書士などの代理人が行うことも可能です。その場合は委任状が必要となります。書類の種類が多く、不備による手戻りも発生しがちですので、専門家に委託するのも一つの方法です。
登記申請が完了したら、申請内容に不備がなければ1週間から10営業日程度で登記が完了します。
6.法人の開業届、個人事業の廃業手続き
会社設立後は、法人口座の開設、税金や社会保険、労働保険などの手続きが必要となります。また、法人化以前の個人事業については、所管の税務署と都道府県税事務所に必要に応じて廃業届を提出します。なお、いずれも税理士や司法書士、社会保険労務士などに相談し、場合によっては代行してもらうことも可能です。
不動産経営に必要な業務は一元管理システムで効率化しよう
不動産経営を法人化すると、さまざまなメリットがありますが、同時に管理や運営にも責任が伴います。法人としての不動産経営には、以下のような業務が必要です。
- 賃貸契約の締結や更新
- 家賃の回収や滞納の対応
- 入居者の募集や審査
- 物件のメンテナンスや修繕
- 税金や保険の支払い
- 決算や申告の作成
これらの業務は、時間や手間がかかるだけでなく、専門的な知識やスキルが必要となります。そこで、不動産経営に必要な業務を効率化するためにも、管理システムを導入することがおすすめです。
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不動産経営の法人化を検討しよう
不動産経営の法人化は、税金対策や相続税対策になります。所得が900万円を超えている場合、早めに法人化を検討しましょう。また、法人化後の業務に役立つのが一元管理システムです。一元管理システムがあれば、不動産管理業務が効率的になり、やりやすくなるでしょう。
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