
管理物件のゴミ屋敷化は、近隣トラブルや多額の修繕費を招く深刻な問題です。とはいえ、オーナーさまや管理会社さまがゴミを勝手に処分することはできません。強制退去やゴミの撤去には法的手続きや段階を踏んだ対応が必要となります。
この記事では、ゴミ屋敷化が増えている背景から実際の対処の流れ、退去後に発生する原状回復費用の考え方などをまとめました。さらに、ゴミ屋敷化の予防策として、入居審査の強化や契約の特約などについて解説します。予防と早期対応のポイントを把握することで、管理物件のゴミ屋敷化のリスクを最小限に抑えることができます。
なぜゴミ屋敷化するアパートが増加しているのか?

ゴミ屋敷化するアパートが増えている背景には、さまざまな社会的な要因が重なっています。地域交流の減少、夜間勤務や単身世帯の増加など、ゴミ出しのルールを守りにくい環境の形成が影響しています。
ここでは、ゴミ屋敷化するアパートが増加している要因について解説していきます。
生活環境の変化
ゴミ屋敷が増加する背景には、ご近所付き合いの減少やプライバシー重視の風潮があります。特に都市部の生活環境は、入居者の生活の乱れに気づきにくく、問題が放置されやすい状況にあるといえるでしょう。
また、夜間勤務や不規則な生活を送る人の増加も影響しています。こうした入居者は、決められたゴミ出し時間に合わせることが難しい場合があります。また、食事スタイルの変化も要因の1つです。コンビニ弁当や総菜は容器や包装が多く、自炊に比べて短期間で大量のゴミが発生しがちです。そのため、ゴミを処理しきれず部屋にたまり、生活の乱れに拍車をかけるといった悪循環を生み出します。
外国人居住者の増加
日本で暮らす外国人にとって、ゴミの分別ルールが理解しづらいことも要因の1つです。日本人にとっては当たり前の可燃と不燃の区別や、資源ゴミなど、彼らにとってゴミの分別は大きな負担といえるでしょう。
多くの賃貸物件では、ゴミ分別ルールの説明が日本語のみで記載されています。そのため、正しい情報を得られない外国人入居者が少なくありません。その結果、誤ったゴミ出しで回収されないゴミが増え、ゴミを出しづらく感じ、室内に溜め込んでしまう場合があります。
ゴミ分別の理解不足自体が直接的にゴミ屋敷を生むわけではありません。しかし、ゴミを抱え込むことが日常化すると、室内のゴミ屋敷化につながるリスクが高まります。
片付けが苦手な入居者の増加
現代社会のストレスや生活習慣の変化により、片付けや整理整頓が苦手な人が増えていることも一因です。長時間労働や人間関係の悩みで家事に手が回らないといったケースも多くみられます。
さらに、うつ病などの精神的な不調によって日常的な家事が難しくなる場合もあります。心の健康を損なうと、掃除や整理の意欲が低下し、ゴミがたまりやすくなります。
また、身近に注意してくれる人がいない環境も、片付けが苦手な傾向を強める要因の1つです。単身世帯では指摘を受けることが少ないため、改善を見込みづらいです。
管理物件(アパート)がゴミ屋敷になってしまったらどうする?

管理物件がゴミ屋敷化しても、オーナーさまや管理会社さまが独断で介入することはできません。入居者には所有権や居住権があり、処分や退去には厳格な手続きが必要だからです。
そのため、入居者への注意喚起から内容証明、訴訟といった段階を踏むことが求められます。ここでは、その流れを具体的に解説します。
ゴミを勝手に処分することはできない
入居者の所有物は、たとえゴミのように見えても勝手に処分することはできません。オーナーさまや管理会社さまであっても、本人の同意なく処分すると所有権の侵害となります。また、窃盗罪に問われる可能性もあります。
さらに、許可なく室内へ立ち入れば住居侵入罪にあたるおそれもあります。近隣から苦情が寄せられても、正当な手続きを経ずに独断で介入することは難しいです。
入居者の強制退去は難しい
借主には「善管注意義務」があり、部屋を適切に管理する責任があります。そのため、義務違反が認められれば契約解除も可能ですが、そのための要件は厳格です。
過去の判例では、社会常識を大きく超える量のゴミを長期に放置したケースで契約解除が認められました。これは、火災や衛生上の危険を招くとの判断があったためで、多少不潔な程度での契約解除は困難といえるでしょう。
また、実際に強制退去を実現するには段階を踏む必要があり、時間も労力もかかります。ここでは、どのような手順を経る必要があるのか、順を追って詳しくみていきます。
強制退去までの流れ①入居者・行政機関に相談
まずは入居者本人に対して、口頭や電話、文書でゴミの処分を求めます。第三者にはゴミに見えても、本人は不要物と認識していない場合があります。そのため、最初は冷静に声をかけ、改善を促すことが大切です。
その際、裁判に発展する可能性を踏まえて「注意した経緯」を残しておくことが重要です。いつ、どのように伝達したのかを記録しておけば、後の証拠として役立ちます。
さらに、役所や警察、保健所などの行政機関への相談も検討しましょう。一度相談しただけでは動いてもらえない場合もあるため、繰り返し報告・相談することが大切です。相談実績を積み重ねることで、行政が関与しやすくなり、裁判でも有力な材料となります。
強制退去までの流れ②内容証明郵便の送付
入居者に繰り返し注意してもゴミ屋敷の改善がみられない場合は、内容証明郵便を送付します。内容証明には「期日までにゴミを処分すること」「対応がなければ契約解除を検討すること」を記載しましょう。
内容証明郵便は「いつ・誰が・誰に・どのような内容を送ったか」を証明できる郵便です。送付すれば即撤去というわけではありませんが、訴訟を進める際の重要な証拠となります。なお、内容証明郵便は未払い家賃の督促などでも使われます。
費用は通常の料金に加え、一般書留と内容証明の加算が必要です。加算料金は440円で、2枚目以降は260円ずつ増額されます。費用はかかりますが、証拠を残せる点で口頭や通常の郵便より有効です。
また、行政機関への相談がさらに重要になります。この時点では「裁判を見据えた協力依頼」が主目的となり、「強制退去までの流れ①」の「相談した記録を残すこと」とは狙いが異なります。警察や消防署、保健所、区役所など、第三者機関の関与を強めておくことが重要です。
強制退去までの流れ③賃貸借契約の解除を要求
繰り返しの注意や内容証明でも改善がみられない場合、賃貸借契約の解除に移行します。これは、改善を促す段階を過ぎ、契約を終了させるという意思表示ともいえるでしょう。②の内容証明が最後の警告にとどまるのに対し、③は実際に解除に踏み切る通知となります。
契約解除を進めるためには、重大な義務違反の立証が必要です。まずは「〇月〇日までに片付けをしてください」といった期限を切った通知を内容証明郵便で送付します。これにより、改善がみられなければ、入居者が義務を果たしていないことが明確になります。そのうえで「契約解除通知」を送ることで、契約を終了させる意思を正式に伝えることになります。
なお、最終的な判断や対応は、事案の詳細や地域の条例によっても異なります。そのため、弁護士と連携し、証拠の整理と手続きの選択を慎重に進めることが重要です。
強制退去までの流れ④明渡訴訟を裁判所に提起する
契約解除を内容証明郵便で送達するだけでは退去の強制力は生じません。そのため、解除に応じない入居者に対して、明渡訴訟を提起します。裁判で「契約解除が有効であること」「物件を明け渡すこと」を認めてもらう必要があります。
ただし、裁判で判決が出ても入居者が自主的に退去しないケースがあります。その場合は、強制執行を申し立てることで執行官による催告が行われ、強制執行による明け渡しが実施されることになります。
なお、この一連の手続きには多大な労力と費用が必要です。そのため、裁判はあくまで最終手段として位置づけておくようにしましょう。
ゴミ屋敷の原状回復・修繕費用は誰が負担するのか?

入居者がゴミ屋敷から退去する際には、多額の原状回復・修繕費用が発生します。ゴミ片付け費用は入居者の全額負担となりますが、床や壁などの修繕費は双方で負担します。負担割合は経年劣化によっても異なりますが、軽度なら数十万円です。しかし、重度となると100万円を超えるケースも少なくありません。
ここでは、原状回復・修繕費用の相場、さらに費用を抑えるためのポイントについて解説します。
ゴミ屋敷の入居者に請求できる主な退去費用
ゴミ屋敷化は、入居者の故意もしくは過失によるため、一般的な原状回復の範囲を超えるものとされます。そのため、ゴミ屋敷の片付け費用は入居者の全額負担となります。オーナーや管理会社が業者を手配した場合、その費用は入居者に請求することが可能です。
一方で、床や壁などの原状回復費用は状況によって負担割合が変わります。経年劣化や通常損耗の場合は貸主が負担します。その一方で、放置されたゴミによる腐敗などによる過度な汚損は入居者負担とされることが一般的です。ただしその場合でも、全額を請求できるわけではありません。設備の耐用年数や減価償却を考慮したうえで請求額が決まります。
原状回復にかかる費用の目安
ゴミ屋敷の原状回復費用は、ゴミの量や損傷の程度によって大きく異なります。
比較的軽度であれば撤去と清掃が中心となるため、相場は5〜20万円程度です。しかし、ゴミが多く一部の設備に損傷があるケースなどでは、30〜100万円程度かかることもあります。さらに重度の場合は、部屋全体の改修や設備交換などが必要となり、100万円を超えるケースも珍しくありません。
一般的な目安としては「家賃3カ月分」が修繕費の相場とされます。しかし、ゴミが天井近くまで積み上がるような状況では、それ以上の費用になることもあります。
原状回復費用を抑えるためのポイント
原状回復費用を抑えるためには、日頃の予防と早期の対応が欠かせません。
予防策としては、片付けを習慣化してもらうことや、不要な家具・家電をリサイクルに回すことなどが挙げられます。こうした工夫はゴミの増加を抑えるだけでなく、処分費用の削減にもつながります。
早期対応としては、カビや悪臭、害虫が出始めた段階で専門業者に依頼することもおすすめです。業者であれば効率的に清掃できるため、放置による二次被害や大規模修繕を防ぐことができます。
管理物件(アパート)のゴミ屋敷化を防ぐためのポイント

管理物件のゴミ屋敷化は、一度発生すると解決までに大きな労力と費用を伴います。そのため、予防の段階から計画的に対策を講じることが重要です。
入居者の信用や身元を丁寧に確認することはもとより、入居者との日常的なコミュニケーションが大切です。ここでは、これらの具体的なポイントについて解説します。
入居審査の徹底
ゴミ屋敷化を防ぐには、入居審査の徹底が重要です。まず、収入や勤務先を確認し、生活基盤が安定しているかどうかを見極めましょう。生活が不安定だと、片付けに手が回らず環境悪化のリスクが高まります。
次に、過去の賃貸履歴やトラブルの有無を確認します。家賃滞納や近隣トラブルがある場合は注意が必要です。保証会社の審査や過去の管理会社への確認も有効です。
入居希望者との面談では、生活習慣やライフスタイルを確認しましょう。夜勤や不規則な生活の人は、日中のゴミ出しが難しいことがあります。契約時にゴミ出しルールを明確に伝え、理解を得ておくようにしましょう。
賃貸借契約書に特約を入れる
賃貸契約書や重要事項説明書に、ゴミの取り扱いに関する特約を加えておくと予防策として有効です。
たとえば、衛生上の支障(悪臭や害虫)や消防上の危険(可燃物の放置)を避けるための規定が考えられます。また、生活への支障(通路が塞がれ日常行為が困難)として盛りこんでおいてもよいでしょう。
なお、特約は法的に有効なものです。契約時に丁寧に説明し、借主の署名・同意を得ておくようにしましょう。また、この段階で負担に感じる入居者は、契約を辞退することもあります。結果として、将来的なトラブルを未然に防ぐことにつながります。
定期的な物件確認の実施
物件のゴミ屋敷化を防ぐためには、年2回程度の定期確認が効果的です。頻度が多すぎるとプライバシー侵害と受け取られかねないため、バランスを意識するようにしましょう。実施にあたっては、必ず事前通知を行い、入居者の了承を得ることが大切です。可能な限り入居者の都合に合わせた日程で行うようにしましょう。
チェック箇所は玄関、リビングや水回り、換気口、ベランダなど、生活状況がわかるポイントが中心です。写真や動画での記録も有効ですが、私物を撮影する際は必ず許可を取る必要があります。なお、こうした記録は変化の把握だけでなく、将来的なトラブル防止にも役立ちます。
問題が見つかった場合は、単なる指摘ではなく改善策を具体的に示しましょう。前向きな提案として伝えると、入居者の理解と協力を得やすくなるはずです。
入居者とのコミュニケーションを深める
ゴミ屋敷化を早期に把握するためには、入居者とのコミュニケーションを日頃から深めておくことが欠かせません。設備点検などで訪問することはできますが、頻繁に実施することは難しいです。だからこそ、日常的にやりとりできる仕組みが重要になります。
入居者とのコミュニケーションは、郵便や掲示でのやりとりが一般的です。しかし、未達や未読といった課題が残ります。また、電話やメールでのやりとりは手間と時間がかかります。状況によっては対応が遅れてしまうといったこともあるでしょう。こうした不便さは、入居者と管理会社との距離を広げる要因になります。
そこで有効なのが、不動産管理に特化した入居者向けアプリの活用です。たとえば入居者アプリ『いい生活Home』は、設備点検の案内やお知らせをアプリから即時に配信できます。未読・既読の確認も可能です。これにより「ちゃんと連絡が行き届いているか」どうかを把握できます。
また、入居者も「管理会社がきちんと見守っている」という安心感を得やすくなるはずです。ちょっとしたことでも相談がしやすい環境の醸成が期待できるでしょう。結果として、ゴミ屋敷化する前に兆候を察知しやすくなり、早期対応につなげやすくなります。
日常的な備えと早期対処で管理物件(アパート)のゴミ屋敷化を防ごう

管理物件のゴミ屋敷化は、近隣への迷惑や修繕費の増加につながる深刻な問題です。強制的な対応には法的手続きが必要となるため、日頃からの備えと早期対応が欠かせません。
また、入居前には基本的な審査や契約内容の確認を徹底することが大切です。入居後は定期的な確認を行い、生活環境の変化を把握するように心がけましょう。ただし、形式的なチェックだけでは不十分です。入居者との信頼関係を築いておくことがポイントとなります。
そのためにも入居者アプリ『いい生活Home』などの不動産管理に特化した入居者向けアプリの導入が有効です。業務効率化を図りつつ、入居者との日常的なコミュニケーションを深めることができます。結果として、異変を早期に察知しやすくなり、ゴミ屋敷化の防止につなげられるでしょう。