賃貸物件の契約には「定期借家契約」というものがあります。この契約は、契約時に決めた期間が終わると、基本的に更新されない点が特徴です。
通常の「普通借家契約」とは異なる点が多くありますので、賃貸の仲介や管理を行う際には、この契約について深く理解しておかなければいけません。
そこで今回は、定期借家契約と普通借家契約の違い、定期借家契約のメリット・デメリット、そして契約時の注意点について詳しく解説します。
定期借家契約とは?
定期借家契約について、まずは定期借家の定義や制度化された背景についてご紹介します。
定期借家について
定期借家は、契約時に決めた期間まで借りられる賃貸物件です。しかし、一般的な賃貸契約とは違い、貸主と借主が同意しない限り更新(再契約)は行われません。この定期借家制度は、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」により、2000年3月に導入されました。
しかし、国土交通省の「令和3年度住宅市場動向調査報告書」によると、この制度を認知している、または名前だけ知っている人は全体の4割弱にとどまっており、広く認知されていないのが現状です。
参考:e-Gov法令検索「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」
定期借家が制度化された背景
定期借家制度は、貸主の負担を軽減し、良質な賃貸物件の供給を促進する目的で導入されました。従来の賃貸契約では、借主が契約の更新を希望した場合、貸主は正当な理由がなければそれを拒否できませんでした。そのため、マナーの悪い借主が居座ることがあったり、退去を促すために高額な立ち退き料が必要になったりといった問題が発生することもあります。
しかし、定期借家契約では、基本的に契約の更新ができません。これにより、貸主は安心して物件を貸し出すことができ、市場に供給される賃貸物件の数も増加することが期待されています。
定期借家と普通借家の違い
定期借家と従来の普通借家には、契約の有無や契約期間などに細かな違いがあります。具体的にどのような違いがあるのかは、以下のとおりです。
定期借家 | 普通借家 | |
---|---|---|
契約更新の有無 | なし | あり |
契約期間 | 1~2年が一般的 | 特に定めなし |
契約期間の満了と更新 | 契約期間満了前に必ず通知が必要 | 手続きをしなければ自動更新 |
契約方法 | 書面での契約 | 口頭でも可 |
更新や契約期間、期間満了の通知方法が異なる
定期借家と普通借家の最大の違いは、契約の更新ができるかどうかです。
定期借家では、借主が希望しても契約は更新されず、契約期間が終了すると契約も終了します。契約期間に特に制限はなく、1年未満でも設定可能です。
また、借主の生活に支障が出ないようにするために契約満了の通知は必須です。契約期間が1年以上の場合、最低でも6カ月から1年前に通知する必要があります。
賃貸物件の管理では、通知漏れや賃料の滞納を防ぐために、入居者の管理が重要です。入境者の管理業務を効率的に行うには、クラウド管理ツールの利用が推奨されます。例えば、『いい生活賃貸管理クラウド』を利用すれば、更新時期が近づくと通知が届き、入居者の管理を確実に行うことができます。
契約方法が異なる
定期借家と普通借家は、契約方法にも違いがあります。まず、定期借家は借地借家法にもとづき、書面での契約が必要です。電子メールなどを使った電子契約も認められますが、口頭での契約は無効となるので注意しましょう。
さらに、定期借家契約は借主に不利なことが多いため、契約時には「更新は行わない」と明確に説明する義務があります。この説明を怠ると、普通借家契約として扱われることになります。
一方、普通借家契約は口頭での契約も可能ですが、トラブルを避けるために契約書を作成することが一般的です。
定期借家契約のメリット
ここでは、定期借家契約のメリットについて解説します。
契約期間を決められるので運用計画を立てやすい
定期借家契約のメリットは、貸し出す期間をあらかじめ決めることができるため、運用計画が立てやすい点です。
例えば、転勤中に家を貸し、転勤が終わったら自宅として再利用するケースがよくあります。また、契約が終わるときには借主にスムーズに退去してもらえるため、物件の売却や解体を考えている場合にも適しています。
立ち退き料を支払わずに済む
貸主の都合で借主に立ち退きを求める際、トラブルを避けるために立ち退き料を支払うことが一般的です。この立ち退き料は、引っ越しや転居にかかる費用を補償するためのものです。状況によっては、かなり高額な立ち退き料を支払う必要がある場合もあります。
定期借家契約では、契約期間が終了すると借主は退去しなければなりません。普通借家契約とは異なり、更新がないため、立ち退き料を支払わずにスムーズに退去してもらうことができます。
家賃減額請求を排除できる
建物は時間が経つにつれて価値が下がっていきます。賃貸借契約は長期間にわたることが多いため、その間に建物の価値が低下し、賃料の減額を求められることがあります。
定期借家契約を利用すれば、こうした家賃の減額請求を防ぐことができます。普通借家契約では、たとえ契約書に「賃料の減額をしない」と書いていても、建物が劣化した場合には賃料の減額を求めることができます。
しかし、定期借家契約であれば、賃料の減額請求を認めないという特約をつけることで、減額の請求を防ぐことが可能です。これにより、貸主は賃料の減収を避け、安定した収入を確保しやすくなります。
近隣物件との差異化ができる
定期借家は、短期賃貸の需要を満たすのにおすすめです。例えば、自宅の建て替えやリフォームなどで一時的に住む場所を探している人にとっては、理想的な契約形態といえます。
一方で、一般的な普通借家は契約期間が1〜2年と長めで、短期契約を希望する人には不向きです。この点で、定期借家は周囲の物件と差別化できるという利点があります。
入居者トラブルに悩まされる期間を短くできる
普通借家契約では、法律により借主の権利が強く保護されています。そのため、特別な理由がない限り、貸主が借主を強制的に退去させることは困難です。仮に退去させる場合でも、正式な手続きを踏む必要があり、それには時間と費用がかかります。そのため、多くの貸主は強制退去をためらうのが現実です。
このような状況では、入居者とのトラブルが長期化することも少なくありません。トラブルが原因で他の入居者が退去したり、空室が埋まらなかったりすると、中長期的に賃貸経営が不安定になる可能性があります。
一方、定期借家契約であれば、契約期間があらかじめ決まっているため、その期間が終われば契約が終了します。これにより、借主とのトラブルが長期化するリスクを減らすことができるでしょう。
定期借家契約のデメリット
続いて、定期借家契約におけるデメリットについて解説していきます。
入居者集めに苦労する可能性がある
定期借家契約の場合、入居者を集めるのが難しいというデメリットがあります。定期借家は短期間で借りたい人には向いていますが、長期間借りたい人からは敬遠されることが多いです。これにより、入居率が低下し、安定した家賃収入を得にくくなるため、貸主にとってリスクが高い賃貸経営となる可能性があります。
短期で借りたい人は長期契約を希望する人に比べて少ないため、地域の特性に合わせた集客戦略が必要です。そうでないと、入居率の維持が難しくなります。そこで、集客戦略として一つ有効な手段が広告の出向です。
『いい生活賃貸クラウド 物件広告』を活用すれば、効果的に物件広告を出向できます。『いい生活賃貸クラウド 物件広告』では、ボタン一つで不動産ポータルサイトや業者間流通サイト、FCシステムに簡単に物件広告を掲載することが可能です。複数のサイトに一括掲載できるほか、物件情報の更新もまとめて行えるので、広告業務の効率化が図れます。
さらに、自社サイトで入居希望者を集める方法も有効です。不動産会社向けホームページ作成ツール『いい生活ウェブサイト』を利用すれば、テンプレートを使って簡単に不動産ホームページを作成できます。物件情報や問い合わせフォームなどのコンテンツ作成や最新情報の更新もスムーズに行うことが可能です。
礼金を設定しにくい
法律で定められているわけではありませんが、定期借家では礼金が設定されていない物件が多いです。礼金とは、借主が貸主に対してお礼の意味で支払う費用のことです。しかし、定期借家契約は貸主に有利な条件が多いため、借主の負担を軽減するために礼金を設定しない場合がよくあります。
また、定期借家は仮住まいとして利用されることが多く、そのため賃料が相場よりも低めに設定されることも多いです。これにより、貸主の収入は普通借家よりも低くなる可能性が高いといえるでしょう。
長期契約が難しい
定期借家は短期間の利用を希望する人との契約が主であり、借主が再契約を望まないことが一般的です。
そのため、悪質な入居者が長期間居座ることを防げるというメリットがあります。しかし、短期間で入居者が入れ替わるため、原状回復や新しい入居者の募集にかかる費用が増えるというデメリットもあります。また、次の入居者が見つかるまでの空き期間が長引くと、その分だけ収入が途絶えることも問題です。
定期借家契約を結ぶ際の注意点
借主と定期借家契約を締結するにあたって、注意点すべき点について解説します。
再契約と更新は別物
定期借家契約の場合、「再契約」は「更新」とは異なります。再契約は、新たに契約を結び直すことを意味します。定期借家契約では、一度契約が終了した後、改めて契約を結ばない限り、借主は同じ物件に住み続けることができません。
再契約は新規契約と同じ手続きを踏むため、契約書の作成や書面の交付、説明の義務が再度発生します。さらに、保証人や敷金・保証金も再契約時には引き継がれません。保証人には再度契約書に署名と押印をしてもらう必要があります。
ただし、敷金・保証金については、契約書に「再契約時には返却せず引き継ぐ」と記載しておくことで、金銭の移動の手間を省くことが可能です。
また、原状回復に関しても、「再契約時には不要で、退去時に初めて入居した状態に戻す」と記載しておくと良いでしょう。
退去してくれない入居者もいる
契約が終了しても「契約は無効だ」と主張して退去を拒む人が稀にいます。そのような場合、まずは定期借家契約が有効かどうかが重要となります。契約を結ぶ際には、以下の点に注意してください。
- 契約書を必ず作成する
- 契約書に更新しないことを記載する
- 契約書の作成前や作成時に、更新がない旨を口頭で説明する
- 説明した内容が書かれた書面を交付する
さらに、契約期間が1年以上の場合は、契約が終了する6カ月前までにその旨を借主に通知する必要があります。契約期間が終了した後に借主が居座るトラブルを避けるためには、これらの要件を満たしているかを確認し、こまめに通知しましょう。
定期借家契約を採用するケースが多い物件
定期借家契約は、リロケーション物件・シェアハウス・店舗の3つで採用されるケースが目立ちます。ここでは、それぞれの物件の特徴について見ていきましょう。
リロケーション物件
リロケーション物件とは、転勤などで自宅が空いている期間だけ他人に貸し出す物件のことです。通常の借家契約では、貸主の都合で契約を更新しないことは難しいですが、定期借家契約を利用すれば、転勤が終わるタイミングで契約を終了させることができます。
長期間家を空ける代わりに、他人が住むことで犯罪や災害時のリスクを減らす効果が期待できます。また、居住していなくても固定資産税や住宅ローンの支払いが必要ですが、家賃収入でこれらの費用を賄える点もメリットです。
シェアハウス
シェアハウスとは、複数の人が一つの建物に共同で生活することを前提に作られた住宅です。通常、契約期間は3カ月から1年未満と短くなります。
その理由の一つとして、トラブルを起こした入居者を迅速に退去させることが挙げられます。シェアハウスは共同生活の場であるため、入居者全体の生活環境を守るためにも、問題を起こした入居者を簡単に退去させられる定期借家契約が多く採用されているのです。
店舗
店舗の場合、立ち退き料には営業補償が含まれるため、住宅や事務所よりも高額になることが一般的です。そのため、店舗では定期借家契約が多く利用されています。これは、立ち退き料の支払いを回避するためです。
定期借家契約の制度が始まった当初から店舗では広く利用されており、現在では一般的な契約形態となっています。
定期借家制度の理解を深めて賃貸ビジネスを成功させよう
定期借家契約とは、契約期間が終了すると更新せずに契約が終了する契約形態です。この契約では、悪質な入居者との再契約を防ぎ、高額な立ち退き料の支払いを避けることができます。
しかし、定期借家契約にはデメリットもあります。ニーズが限定されるため、入居者を集めるのが難しく、礼金の設定や長期契約がしにくいことです。そのため、賃貸ビジネスを行う際には、定期借家契約について正しく理解することが重要です。
また、定期借家契約を含めて入居者や契約書、物件などの管理を行う際、効率的かつ漏れがないように管理しなければいけません。そのようなときはシステムを活用するのがおすすめです。例えば、賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』を活用すれば、賃貸管理業務を一元化でき、仲介会社への情報提供も正確かつ効率的に行えます。
さらに、クラウド型のため、最新の法改正にも迅速に対応できるのが強みです。賃貸管理を効率化したい場合は、ぜひ導入を検討してみてください。