今まで、不動産の契約には紙の契約書が使われていました。現在は法整備が進んだことで、不動産取引の電子契約が全面解禁されています。電子契約が使えるようになったことで、非対面でも契約が可能となり、契約業務の効率化につながりました。
その一方で、電子契約を導入するにあたって関連する法律、運用上の注意点を理解しておくことが必要です。そこで今回は、不動産取引に電子契約を導入するメリットや注意点、関連する法律、電子契約サービスの選び方などについて解説します。
不動産取引で電子化できる契約書類の範囲
法改正以前は宅地建物取引業法によって、重要事項の説明、売買契約や媒介契約の締結は対面で行うことが義務付けられていました。しかし、2021年5月にデジタル改革関連法案が成立し、押印義務と書面化義務が原則廃止されることとなりました。
この法律の成立に合わせて、宅地建物取引業法が改正されています。具体的には、重要事項説明書や契約締結後の書面に宅地建物取引士の押印が不要となり、各書類の電子化が認められるようになりました。これによって、2022年5月から不動産取引における書類の電子化が全面解禁され、ITツールを活用した重要事項説明や電子契約が可能となっています。
電子化可能な契約書類には、以下のものが挙げられます。
- 媒介契約書
- 重要事項説明書
- 賃貸借契約書
- 定期借地権設定契約書
- 定期建物賃貸借契約書
不動産取引で電子契約を導入するメリット
不動産取引で電子契約を使えるようになったことは、不動産会社にとって大きなメリットがあります。具体的なメリットは以下のとおりです。
迅速な契約につながる
電子契約を導入するメリットは、スピーディーな契約を実現できることです。これまでは、売主や買主、貸主や借主といった当事者に加え、媒介業者・仲介業者・取引主任の複数人の記名や押印が必要でした。
紙の契約書の場合、関係各所に送付する必要があり、時間がかかっていたこともネックとなっていました。また、契約書にミスがあれば、修正の際に全員分の訂正印が必要となるなど、契約締結まで何かと時間がかかることになります。
一方、電子契約であれば、書類を素早く送付することが可能です。万が一契約書の修正が必要なときもすぐに対応できます。これにより、従来の契約よりも迅速な契約が可能となったのです。
コストを削減できる
契約にかかるコストを削減できることも電子契約のメリットです。不動産の譲渡・売買や土地の賃借権、不動産の請負に関する契約書には、収入印紙の貼り付けが必要であり、印紙税がかかります。印紙税は契約内容と金額で変動しますが、不動産は高額な取引になるため、印紙税が高くなりがちです。
しかし電子契約の場合、収入印紙は不要なため、印紙税がかからずコストカットにつながります。それ以外にも、紙の印刷費用や書類の製本費、郵送費、契約業務にかかる人件費の節約も可能です。
ペーパーレス化を実現できる
電子契約の導入により、社内のペーパーレス化を実現できます。紙の契約書は、それを保管するための物理的なスペースが必要です。しかし、電子化された書類であればシステム上にデータを保管することになるので、書類の保管に必要なスペースが不要となります。
また、電子ファイルは管理のしやすさや検索性に優れており、タイトル・時期・検索タグなどを使って必要な書類をすぐに見つけることが可能です。社内でスムーズに共有できることも電子ファイルのメリットになります。
紙の書類の場合、火災や自然災害によって書類がなくなってしまう可能性もリスクとなります。電子ファイルであればクラウドシステムなどを活用することで、PCの破損による書類データの消失などを回避することが可能です。
不動産取引で電子契約を導入するために準備すること
不動産取引で電子契約を導入するためには、事前に準備が必要です。導入を検討しているのであれば、以下の準備を進めましょう。
契約プロセスを再構築する
電子契約の流れは、これまでの契約プロセスと少し異なります。そのため、オンラインで契約を完結できるように、プロセスを洗い出して手順を見直すことが必要です。
例えば、入居申込書などの各種用紙を電子化し、契約者がオンライン上で記載できるようにする必要があります。さらに、重要事項説明もオンラインで完結できるように、重要事項説明書の電子化、ビデオ通話ツールの導入も必要になります。
業務ルールを明確にする
電子契約では、従来の契約業務にはなかった業務フローが発生するため、契約業務のルールを新たに決めておくことが大切です。例えば、電子ファイルを保管する場合、どの範囲までアクセス可能にするか、その権限の範囲を明確にしなければなりません。
他にも、契約内容のチェックミスを防ぐために、確認手順を決めておくことも求められるでしょう。電子契約のプロセス・フローを把握した上で、適切に運用するために必要なルールを検討してみてください。
電子契約向けに契約書を修正する
もともと、WordやExcelで契約書を作成しているのであれば、PDFに変換するだけで書類の電子化は可能です。しかし、電子契約ができる書類として一部修正が必要になる可能性があります。
例えば、「記名・押印」は「電子署名」に変更されます。また、「契約当事者が契約書類を保有する」という文言を「電子データとして保存する」の文言に修正しなければなりません。契約者が電子署名しやすいように、レイアウトの変更が必要となるケースもあります。
電子契約を導入する際の注意点
メリットが大きい電子契約ですが、導入にあたって注意しなければならない点もあります。その注意点は以下のとおりです。
電子契約は双方の同意が前提となる
電子契約をするためには、自社と取引相手の双方の同意が必要です。自社側が電子契約を望んでも、取引相手が書面での契約を希望するのであれば電子契約を使えず、紙の契約書で対応することになります。
そのため、電子契約を推進していくのであれば、相手方にしっかりと説明して、理解と協力を得る必要があります。電子契約が初めてという方はまだまだ多いので、心理的なハードルを下げるためにも、誰でも使いやすいシステムを採用することが大切です。
また、どうしても紙面上での契約締結を望むというお客様もいるはずです。その際にもスムーズに対応できるように、書面での契約手段も残しておくようにしましょう。
業務フローの見直しや体制の構築が必要になる
電子契約は、単純に契約書類を電子化すれば始められるものではありません。先に述べたとおり、契約プロセス・業務フローの見直しが求められます。フローを見直さずに導入すると、ミスが生じ、現場が混乱する可能性があるので注意が必要です。
また、不動産取引における契約書類は多岐にわたるため、一度にすべての契約書を電子契約に対応していくのは大変な作業となります。そのため、まずは部分的に電子契約を導入し、少しずつ範囲を拡大していきましょう。最終的にはすべての契約で電子契約が可能となる体制に、徐々に切り替えていくのがおすすめです。
万全なセキュリティ対策や教育を行う
電子契約はオンライン上で行われる上に、データはPCやシステム上に保管されます。電子データは漏洩や改ざんのリスクがあるため、セキュリティ対策が必須です。
データの漏洩や改ざんが起こる原因は多岐にわたります。例えば、サイバー攻撃やウイルスの侵入、書類を入れていたUSBやPCの紛失などさまざまです。
そのため、サイバー攻撃やウイルスの侵入に備えて、高いセキュリティを誇るシステムやサービスの導入が必要です。一方で、社員のミスでデータが流出するリスクもあるため、セキュリティ意識の向上も図りましょう。他にもこまめにバックアップをとることも、漏洩や改ざんリスクの軽減策になります。
電子契約に関する重要な法律
電子契約を導入するにあたって、関連する法律の理解も深めておく必要があります。主に関連する法律は、電子帳簿保存法と電子署名法の2つです。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法とは、税務関係の帳簿書類を電子データとして保存する場合のルールなどを決めた法律です。電子取引を行う場合、この法律に則って電子データを保存する必要があります。
例えば、電子契約書を保存する場合、契約書が改ざんされていないことを証明できる状態であることが求められるため、認定タイムスタンプの付与が必要です。タイムスタンプは、刻印された時点でデータが存在し、その時刻以降に改ざんが行われていないことを証明するものです。他にも、訂正や削除を行った事実・内容がわかるシステム、または訂正・削除が不可能なシステムの利用が必須となります。
電子帳簿保存法の法改正によって、2024年1月1日から電子取引を行っている事業者は電子取引のデータ保存が完全義務化されています。そのため、電子契約を導入する上で電子帳簿保存法をしっかり理解することが欠かせません。
電子署名法
電子署名法の正式名称は「電子署名及び認証業務に関する法律」で、電子署名の法的有効性を証明する法律です。この法律によって、電子契約においても従来の署名・押印と同様の証拠力を持たせられるようになりました。
ただし、電子データは改ざんやなりすましなどのリスクがあります。そのため、電子署名は本人が行うこと、改変されていない事実を確認できることといったルールが定められているのです。
本人が署名した証拠を示す方法として電子証明書の付与が必要になるため、電子証明書を付与して署名が行えるサービスの利用が欠かせません。なお、電子署名法の要件を満たす電子署名サービスは、国が認定する業者のみが提供可能です。電子署名が改変されていないものと確認する方法としては、電子帳簿保存法と同じくタイムスタンプの付与などが挙げられます。
不動産取引で電子契約を締結するまでの流れ
不動産取引で電子契約を導入するためには、締結までの流れを理解しておくことも大切です。ここでは、電子契約を締結するまでの流れを見ていきましょう。
重要事項説明書に宅地建物取引士の署名をする
まずは、PDF化した重要事項説明書と契約書を、電子契約サービスにアップロードします。契約者に重要事項説明書を交付する前に、宅地建物取引士の電子署名が必要です。この署名は電子契約サービス内で行います。
宅地建物取引士の署名は、直筆と印字のどちらでも構いません。重要事項説明を行う前に、改ざん防止を施した重要事項説明書を、買主・賃借人に交付してください。
重要事項説明を行って同意を得る
不動産取引では、重要事項説明を行い、契約内容の同意を得なければなりません。電子契約ではタイムスタンプでログが残ってしまうため、重要事項説明の前に署名を行わないようにしてください。順番を間違えると、宅建業法違反になってしまう可能性があります。
今までの重要事項説明は対面での対応が求められましたが、現在はITツールを使ってオンラインで実施できます。ただし、オンラインで行う場合、重要事項説明の前に相手方に同意を得る必要があります。さらに、同意を得たことを証拠として残さなければなりません。
- 電子署名サービスを通じて同意書を送信・受信する
- 事業者と契約者の双方が同意書に電子署名をする
- 事業者が同意書の内容を記載して、送付したメールに返信してもらう
このように、相手が同意したという証跡を残すことができれば、オンラインでの重要事項説明が可能となります。
電子契約を締結する
重要事項説明書に署名が完了したら、契約の締結となります。電子契約であれば電子署名をするだけで済むため、スムーズに締結することが可能です。
ただし、非対面の電子契約にはなりすましのリスクがあります。そのため、契約者本人かどうか確認した上で署名ができる電子契約サービスを使って、締結するようにしましょう。
不動産取引の電子契約サービスを選ぶ際のポイント
電子契約サービスは多岐にわたるため、自社に合ったものを選ぶ必要があります。ここでは、不動産取引における電子契約サービス選びのポイントを見ていきましょう。
相手の負担を考慮して選ぶ
導入する電子契約サービスは、契約する相手方の負担を考慮して選ぶことが大切です。電子契約サービスには、立会人型署名と当事者型署名があります。どちらのタイプを選ぶかによって、取引相手が負担する費用や手間が変わるので注意してください。
立会型署名は、送られてきたURLにアクセスして、契約内容の確認や承認をする形となります。契約者にアカウント登録を求めることがなく、費用の負担が発生しないことが一般的です。ただし、電子証明書がないので、法的効力が弱いことがデメリットといえるでしょう。
当事者型署名は、電子証明書を発行するので法的効力の高いシステムです。ただし、取引相手も同じ電子契約システムの利用が必要となります。電子証明書の発行には費用が発生するため、取引相手の負担が大きいことがデメリットです。利用にあたっては、十分な理解を得ることが重要となります。
法的効力を担保する機能があるか確認する
電子契約サービスは、タイムスタンプ・電子署名・電子証明書の3つの機能によって、法的効力が担保されています。この中でもとくに重要となるのは、タイムスタンプと電子署名の2つです。そのため、電子契約サービスを導入する際は、必ずタイムスタンプと電子署名が備わっていることを確認してください。
また、立会型署名は当事者型署名と違って電子証明書が発行されません。本人確認を強化したいのであれば、2要素認証や本人確認書類添付機能などが備わっているかどうかを確認しましょう。
セキュリティ性の高さを確認する
どの電子契約サービスでもセキュリティ対策が講じられていますが、セキュリティ性の高さは業者ごとに異なります。そのため、どの程度のセキュリティレベルなのかを確認して、信頼できるサービスを利用しましょう。
ただし、あまりに高度なセキュリティ機能を有するサービスは、導入や運用に膨大なコストがかかる可能性があります。とくに相手方と同じ電子契約システムの利用が求められる当事者型署名では、コスト負担の問題から電子契約に対応してくれない可能性もあります。そのため、必要なコストも考慮し、自社の規模やレベルに合ったセキュリティ機能を有したサービスを選びましょう。
費用対効果を見極める
電子契約の導入により、印紙税や印刷費などさまざまなコストをカットできます。しかし、電子契約サービスの料金は業者ごとに異なるため、費用対効果がどの程度になるのかを十分に検討しないと経費の削減につながらない可能性があるため注意してください。
電子契約サービスの中には、無料プランを設けているものもありますが、利用できる契約書の件数や機能に制限があるため、基本的には有料プランの登録が必要です。また、電子契約サービスはサブスクリプションでの提供が基本となります。そのため、1年間に発生していた印紙税や郵送費などを求め、どれだけの費用対効果が得られるのか確認してみましょう。
情報管理システムと連動可能か確認する
電子契約サービスが情報管理システムと連動できるかどうかも重要なポイントです。情報管理システムと連動できれば、契約業務を一元化でき、業務の効率化につながります。SFAやCRMなど、どのようなシステムと連動できるのかを確認して、電子契約サービスを選ぶようにしましょう。
不動産管理や仲介業務で電子契約を導入したいのであれば、『いい生活のクラウドSaaS』の導入をぜひご検討ください。クラウド型電子契約サービスの『GMOサイン』や『クラウドサイン』と連携でき、物件情報・顧客情報・契約情報を一元管理できます。そのため、情報管理から契約締結までをワンストップで行うことが可能です。
不動産業務の効率化には電子契約がおすすめ
電子契約ではスピーディーに契約を締結でき、契約業務の効率化を実現できます。社員の負担やコストの軽減だけではなく、不動産取引に関する顧客満足度を高める効果も期待できるでしょう。
ただし、電子契約の導入にあたって、契約プロセスの見直しや社員の教育はもとより、関連する法律の理解も必要になります。利用するサービスの選定も重要となるなど、しっかりと準備をした上で、電子契約の導入を進めましょう。
また、電子契約の導入に悩んでいるのであれば、電子契約をはじめ、不動産業界の幅広い課題の解決に応えられる『いい生活のクラウドSaaS』の導入もぜひご検討ください。