
ビルを運用・維持管理していくためには、ビルマネジメントが欠かせません。ビルマネジメントとは、建物を維持することに加えて、収益化や安全性の向上に向けて総合的にビルを管理するための業務全般を指します。
しかし、ビルマネジメントが具体的にどのような業務を行うもので、ビルメンテナンスやプロパティマネジメントとの違いがわからないという方も多いでしょう。そこで今回は、ビルマネジメントとは何かについて、基本的な内容からビルマネジメントの仕事に役立つ資格まで詳しくご紹介します。ビル管理に携わる方はもちろん、ビル管理の委託をお考えの方も、ぜひ参考にしてみてください。
ビルマネジメントとは?

ビルマネジメント(ビルマネ・BM)とは、ビルを総合的に管理するための業務を指します。建物を現状のまま維持・管理していくための業務はもちろん、修繕計画の作成といったビルを安全に運用するための業務も含まれます。
1980年代頃までは、これらの業務をビルのオーナーが行っていました。しかし、大規模なビルになるとオーナーだけですべての業務をこなすのは困難です。加えて、バブル期を境に大規模なビル・マンションが増加したため、現在は外部に委託することが一般的です。
ビルメンテナンスとの違い
ビルマネジメントと似ている言葉に、「ビルメンテナンス(ビルメン)」があります。ビルメンテナンスとは、建物の中に設置された設備の点検・保守・修理・交換などを行う役割を指します。ビルメンテナンスが担う設備管理の範囲は広く、主に以下の設備管理が含まれます。
- 電気や水道などのインフラ設備
- エレベーターなどの機械設備
- 空調設備
- 排水設備
- 防水設備 など
これらの設備管理を怠ると、建物の価値が下がってしまうだけでなく、メンテナンス不足によって大規模修繕が必要となるケースもあります。ビルの運用コストにも大きな影響をもたらすでしょう。
ビルメンテナンスはあくまでも設備の点検や保守が中心ですが、ビルマネジメントはビルを運用するために必要な管理業務のすべてを担う点が両者の相違点です。そのため、ビルメンテナンスはビルマネジメントの一部として扱われることもあります。
プロパティマネジメントとの違い
プロパティマネジメントとは、不動産経営における幅広い業務を代行する役割を指します。例えば、ビル内のテナントに空室ができた際の募集業務や賃料の回収、契約の締結・解約手続き、クレーム対応などはプロパティマネジメントに含まれます。
プロパティマネジメントの主な目的は、不動産経営の収益を最大化させることです。一方、ビルマネジメントは建物を適切に管理することで資産価値を維持することが目的のため、業務内容が異なります。
ただし、プロパティマネジメント業務の中にビルマネジメントが含まれる場合もあります。
ビルマネジメントの主な業務内容

ビルマネジメントはビルを総合的に管理することが役割のため、業務内容は多岐にわたります。ここではビルマネジメントにおける主な業務内容をご紹介しましょう。
- 管理業務計画の策定
- スケジュールの作成
- 環境調査
- 清掃業務
- 警備業務
- 防災業務
- 管理サービス業務
- 法定点検
- 修繕計画の策定
管理業務計画の策定
ビルを管理する上でどのような業務が必要かをあらかじめ洗い出し、管理業務計画を策定します。中長期計画を策定した上で、年次・月次の入居状況や営業状況などをまとめ、レポートを作成することで、現状の把握と共有、問題点の可視化、課題解消のための検討などを行うことが可能になります。
スケジュールの作成
管理業務計画を策定したら、その内容に従って1年間の業務スケジュールを作成していきます。長期修繕計画を立てる際に必要なスケジュールなども、ビルマネジメントの業務で作成するケースが多いです。
例えば、定期清掃や法定点検の時期はいつなのかを把握するために、スケジュールを作成します。その際のコスト、リスクなどを管理することも業務に含まれます。
環境調査
建物が周辺環境に与える影響を調査するために、建築物環境衛生管理基準をクリアしているかどうかをチェックすることも業務に含まれます。建築物環境衛生管理基準は、高水準の快適性を実現するために設定された基準のため、万が一適合していなくてもただちに行政措置や罰則を受けるということはありません。
また、ビル衛生管理法に基づき空気環境測定も実施されます。空気環境測定は特定建築物に指定されている施設では必須の調査になります。検査項目・基準は以下のとおりです。
検査項目 | 基準 |
---|---|
浮遊粉塵の量 | 0.15mg/m3以下 |
一酸化炭素の含有率 | 100万分の6以下(6ppm以下)※特例で外気がすでに10ppmを超えている場合は20ppm以下 |
二酸化炭素の含有率 | 100万分の1,000以下(1,000ppm以下) |
温度 | ①18℃以上28℃以下②居室での温度を外気の温度より低くする場合、その差を著しくしないこと。 |
相対湿度 | 40%以上70%以下 |
気流 | 0.5m/秒以下 |
ホルムアルデヒドの量 | 0.1mg/m3以下(0.08ppm以下)※新築・大規模修繕時の直近6~9月の間に1回実施 |
清掃業務
ビルを日常的に管理するのもビルマネジメントの仕事の1つのため、清掃業務が含まれている場合もあります。清掃業務は日常清掃以外に、定期清掃や衛生管理清掃も含まれます。
日常清掃は日々の汚れを掃除するもので、トイレや床の清掃、ゴミの回収、落葉の除去などが含まれます。日常清掃を怠ると建物全体の印象も悪くなりやすいです。
定期清掃は月に1~2回実施する業務で、床のワックスがけや高所のガラス、エアコンのフィルターなど日常清掃では落としきれない汚れが中心となります。
衛生管理清掃は、主に感染症を予防するために必要な業務です。いずれも自社で実施する場合もありますが、清掃業者に委託するケースも少なくありません。
警備業務
ビル内部や周辺環境の安全を守るの警備業務もビルマネジメントに含まれます。防犯カメラの設置や認証システムの導入など、ビル内部の防犯性の向上につながります。
警備員を配置する際には、常駐警備に加えて巡回警備、機械警備など、そのビルに合った適切な警備体制を敷きます。巡回警備は定期的に建物内を巡回することで、盗難や災害などの警戒・防止に有効です。機械警備は基地局を設置し、通信回線による遠隔監視によって警備をする方法で、異常発生時のみ警備員が駆け付けます。
防災業務
自然災害の発生に備え、消防設備や防災設備の設置を行います。
加えて、非常時を想定したマニュアルを策定し、消防訓練の準備・実施なども計画に組み入れます。消防訓練では、エレベーターが使えなくなったことを想定した非常階段からの避難や、避難後の点呼・確認なども行います。
管理サービス業務
受付や電話交換、クレーム対応などもビルマネジメント業務に含まれます。これらに効率よく対応するためにも、テナントと管理会社がスムーズに連絡を取れる手段を用意しておくことも重要です。
テナントと管理会社がスムーズにコミュニケーションを取る際には、ツールの活用がおすすめです。『いい生活Home』は、アプリ内でトラブルの報告やメンテナンスの依頼など、テナントと管理会社側がスムーズにコミュニケーションを取れるツールになります。やり取りの履歴が残るため、言った・言わないのトラブルを回避できたり、写真や動画を送信することで素早く状況を判断できたりするなど、さまざまなメリットがあります。
法定点検
ビル管理に必要な法定点検に関する業務も、ビルマネジメントに含まれます。ビルで実施される主な法定点検は、以下のとおりです。
- 建築設備定期検査
- 特殊建築物定期調査
- 貯水槽清掃・水質検査
- 簡易専用水道定期検査
- 消防用設備点検
- エスカレーター・エレベーター保守
法定点検に関しては、実施しないと罰金が課される場合もあります。また、法定点検でミスがあれば、人命に関わるような被害につながる可能性もあるため、重要な業務の1つと言えるでしょう。
修繕計画の策定
修繕計画は、ビルをより長く維持・管理していくために欠かせないものの1つです。中長期的な修繕計画を立案・策定し、必要な修繕を実施していきます。
具体的には、建物の劣化状況や外壁・屋上の仕様(素材や塗装方法、塗料の種類)などを確認し、補修時期などを検討した上で、計画を立てていくことになります。また、建物自体だけでなく設備の更新工事も修繕計画に含まれる場合があります。
ビルマネジメント業務に役立つ資格

ビルマネジメント業務に役立つ資格は以下の7種類です。
- ビル管理士
- ビル経営管理士
- 電気工事士
- ボイラー技士
- エネルギー管理士
- 危険物取扱者
- 認定ファシリティマネジャー
ここでは、各資格の特徴についてご紹介します。
ビル管理士
ビル管理士の正式名称は「建築物環境衛生管理技術者」です。資格を取得すると、管理業務計画の立案、指揮監督などを担当できます。
ビル管理士になるためには、厚生労働大臣が認可した講習会の課程を修了するか、日本建築衛生管理教育センターの試験に合格することが必要です。なお、試験を受験するためには、環境衛生上の維持管理業務経験(2年以上)が求められます。
ビル経営管理士
ビル経営管理士とは、ビルの企画から立案、テナントリーシング、ビルマネジメント業務まで、ビルの経営管理に幅広く携わることができる資格です。ビル経営管理士が宅地建物取引士の資格も取得すると、不動産特定共同事業の業務管理者になることも可能です。
ビル経営管理士の資格取得には、ビル経営管理講座の受講がおすすめです。ビル経営管理講座を受講すると、ビル経営管理主任の資格を与えられ、ビル経営管理士試験の総合記述(30点)が免除されます。
電気工事士
電気工事士は、電気設備の工事や取り扱いに欠かせない国家資格で、電気設備の不具合や定期点検などを行うことができます。電気工事士は第一種と第二種で扱える工事の範囲が異なっており、第二種の場合、一般的な住宅や小規模な店舗などの工事が中心です。第一種であれば、最大電力500kW未満のビルの工事にも従事できますが、3年以上の実務試験が必要です。
ボイラー技士
ボイラー技士は、ボイラーの管理や点検、修繕などを行える国家資格です。ボイラーは、ビル内の空気や温水を適切に保つのに必要なもので、室内空間の快適性に直結する設備です。
ビルメンテナンスは、ボイラー技士の資格も必要とされるケースが多いですが、設備管理に関する知識も有していれば、どの現場でも重宝されるでしょう。
エネルギー管理士
エネルギー管理士は、エネルギーを使用する設備の維持管理、消費効率化、現場指揮などを担う資格です。エネルギー管理士は、建築物環境衛生管理技術者・第三種電気主任技術者と並んで「ビルメンテナンス3種の神器」と言われています。これらを取得していると、業界内で重宝されやすくなります。
危険物取扱者
危険物取扱者は、消防法によって定められた危険物を取り扱うための国家資格です。取り扱うものの種類によって、甲種・乙種・丙種の3つの資格にわかれます。
ビルのボイラー設備は、燃料に重油を使用する場合が多いことから、引火性液体を扱える乙種4類を取得しておくと仕事の幅が広がります。
認定ファシリティマネジャー
認定ファシリティマネジャーは、企業や組織が所有する建物・設備の管理業務や運用(ファシリティマネジメント)の専門資格です。資格保持者は、施設管理業務を適切に実施し、資産価値の維持・向上、省エネ対策の実施によるコスト削減などに寄与します。資格を取得するためには試験(学科試験・論述試験)に合格する必要があり、合格後の資格登録では、ファシリティマネジャーとしての実務経験が必要になります。
ビル管理の業務効率化を目指すには?

ビルマネジメント業務は多種多様で、実際に業務を進めていこうとすると手間と時間がかかってしまうものです。続いては、ビル管理の業務効率化を目指すための方法をご紹介します。
管理システムの導入
ビルマネジメント業務は、業務計画の立案から日常の清掃業務に至るまで、さまざまな業務を担っています。その中でも特に事務作業の効率化を図るためには、一元管理できるシステムの導入がおすすめです。システムによって業務効率化だけでなく、作業の見落とし防止や、データの集約など、効果的な運用計画につなげることができます。
物件管理業務の一元管理を目指すなら、賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』がおすすめです。賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』なら物件の管理から賃貸契約、入出金の管理まで、あらゆる業務に関する情報管理を1つのシステムで完結できます。クラウドシステムなので、法改正があった場合でもベンダー側が機能改善を行うため、わざわざ修正する必要もありません。
ビルマネジメント業務に情報を一元管理できるシステムを導入したいとお考えの方は、ぜひ賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』の導入もご検討ください。
外部サービスの活用
外部サービスをうまく取り入れることも業務効率化に有効です。例えば、日常清掃をアウトソーシングすれば、毎日の清掃業務に労力を割く必要がなくなります。
また、単に業務負担が軽減されるだけでなく、特定の分野において専門的な知識を持っている業者に依頼することで、高度な技術を活用したサポートも受けられるはずです。ビルマネジメントの業務内容は多岐にわたるため、少しでも負担を軽減させるために外部サービスをうまく活用していきましょう。
ビルマネジメントはビルの収益化と安全性を高める重要な業務

今回は、ビルマネジメントとは何かについて、特に業務内容や業務に役立つ資格などに注目してご紹介してきました。ビルマネジメントは、単にビルの維持・管理を行うための業務ではなく、収益化と安全性を高めるために、総合的にビルを管理するための業務です。ビルを管理する上で重要な役割を担っており、幅広い業務をこなす必要があります。
そんなビルマネジメント業務の効率化を目指すためには、ビルの情報を一元管理できる管理システムの導入や、外部サービスの活用がおすすめです。『いい生活のクラウドSaaS』は、不動産管理業務を網羅し、課題解決につながる各ツールをご用意しています。賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』をはじめ、ビルマネジメントにも役立つツールも揃っているため、ぜひ導入をご検討ください。