
契約管理や入金確認、物件情報の更新など、不動産業務には日々膨大な定型作業が発生します。人手不足が深刻化する中、これらの事務処理を限られた人員でこなすことは現場の大きな負担となっており、作業ミスや対応遅延、長時間労働などの課題を引き起こしています。
こうした状況を背景に注目を集めているのが、業務プロセスを自動化する「RPA」です。人がパソコン上で行う操作を記録し、同じ手順を正確に繰り返すことができるRPAは、入力・照合・集計などの定型業務を高速かつ正確に処理し、現場の負担を大幅に軽減します。
この記事では、不動産業務におけるRPAの仕組みと導入メリット、活用事例、そして効果を最大化するための運用ポイントを詳しく解説します。
RPAとは?不動産業界で注目される理由

RPAとは、人がパソコン上で行っている操作を自動的に再現し、業務を代行する仕組みを指します。特定の作業手順をソフトウェアが学習し、決まったルールに沿って正確に処理を実行します。
たとえば、顧客情報の登録や契約書の作成、Webサイトからのデータ取得など、毎回同じ手順で行う作業はRPAが得意とする領域です。手作業であれば入力ミスや確認漏れが起きやすい業務でも、RPAを活用すれば短時間で精度高く処理できます。
不動産業務では、契約・修繕・入退去・請求など、反復性の高い業務が多く存在します。これらの処理をRPAに任せることで、担当者の負担を軽減しながら、ヒューマンエラーの防止やスピード向上の実現が可能です。さらに、定型業務を自動化することで、スタッフが営業・提案・顧客フォローといった判断を要する業務に時間を割けるようになります。
不動産業界が抱える課題

不動産業界では、契約や修繕、入退去、請求処理など多岐にわたる業務を同時進行で進める必要があります。
しかし現場では、紙やExcelによる管理、部門ごとの情報分断、繁忙期の業務集中、人手不足といった課題が重なり、業務の複雑化と属人化が進んでいるのが現状です。
こうした構造的な問題は、処理スピードや正確性を損ない、顧客対応の遅れや従業員の負担増加を引き起こします。
ここではまず、不動産業務の現場で顕在化している主な課題を整理していきます。
紙・Excel依存による非効率
紙やExcelによる情報管理は、情報の分散や二重入力を引き起こし、業務の非効率を招きます。
たとえば、部門ごとに異なる書式で処理すると、データの突合が困難になり、部門間の連携も滞りがちです。その結果、最新の情報が反映されていないファイルを参照してしまうリスクや、集計・検索・分析に時間を要する問題も発生します。
さらに、フォーマットのばらつきによってデータの汎用性が下がり、全体の作業効率を大きく損ないかねません。こうした紙・Excel依存の体制は、処理速度・正確性・連携性のいずれの面でも不動産業務の制約となるため、RPAの導入を含めたDX(業務デジタル化・自動化)の必要性を高める要因となっています。
情報の分断と属人化
情報が部門や担当者ごとに分かれて管理されていると、共有の仕組みが機能せず、業務が特定の人に依存しやすくなります。担当者が独自の方法でデータを整理・保存している場合、他の社員が内容を把握するのに時間がかかり、同じ作業をやり直すといったことにもなりかねません。
こうした属人化が進むと、担当者が不在になった際に引き継ぎが難しくなり、判断や対応が滞るリスクが高まります。さらに、情報が個人の感覚や経験に頼る形で管理されるため、判断基準がばらつき、組織全体の品質やスピードにも影響を及ぼすでしょう。
結果として、情報の分断と属人化が互いに影響し合い、ミスや遅延が起こりやすい業務フローの固定化につながります。
繁忙期の業務集中
不動産の繁忙期には、契約の締結や更新手続き、入退去対応といった業務が一斉に重なり、現場の負荷が急激に高まります。特に1〜3月の引っ越しシーズンはスケジュールが集中し、限られた人員で膨大な処理をこなさなければならず、残業の増加や人的ミスが発生しやすくなります。
この時期は修繕依頼や問い合わせ対応も増えるため、担当者の対応が追いつかないケースも少なくありません。対応が遅れることで入居者やオーナーからの信頼が揺らぎ、確認作業や承認手続きが後工程にしわ寄せされることもあります。さらに、現場だけでなく管理職層にも対応や承認業務が集中し、全社的に長時間労働が発生しやすい傾向があります。
繁忙期に業務が集中する構造そのものが、業界全体の慢性的な課題となっているのです。限られたリソースの中で、どのように処理を平準化し、事前準備や分業体制を整えられるかが、不動産管理業務を安定的に運営するうえでの重要なテーマとなっています。
人手不足と労働環境の改善要求
不動産業界では人手不足が深刻化しており、採用難や人材の流動化が長期化しています。新規採用が進まない一方で、物件数や顧客対応の業務量は変わらないため、限られた人員に日常業務が集中しやすい状況です。その結果、契約や修繕、入退去、請求処理など幅広い業務を同時に抱えることになり、一人ひとりの負担が大きく、長時間労働が常態化しやすくなっています。
特に中小規模の企業では人材確保が難しく、こうした環境下で疲労やストレスが蓄積し、モチベーションの低下や離職につながりやすくなります。結果として、慢性的な人手不足がさらに続くという悪循環を生んでいるのです。
また、業務負荷の増加は対応スピードやサービス品質にも影響し、顧客満足度の維持を難しくしています。人材不足が慢性化する中で、現場の負担をどう軽減し、働き続けられる環境を整えるかが、今後の重要な課題といえるでしょう。
RPA導入のメリットと注意点

ここまでみてきた不動産業務課題を解消する手段の1つとして、RPAの導入が進んでいます。契約書作成や入金確認、物件情報の更新など、定型的な業務を自動化できるため、担当者の負担を減らしながら生産性を高めることが可能です。
ただし、RPAは導入するだけで即座にすべての業務を効率化できるわけではありません。自動化の範囲や運用設計を誤ると、かえって手間や管理負荷が増すケースもあります。
ここでは、RPA導入によって得られる主なメリットと、運用時に注意すべきポイントについて解説します。
RPA導入のメリット
RPAを導入することで、日常的な入力や集計などの定型業務を自動化でき、作業時間の短縮と残業抑制が期待できます。担当者は単純作業から解放され、契約管理や顧客対応など、より判断を要する業務に集中できるようになるでしょう。
また、RPAは業務量の増減にも柔軟に対応できる拡張性を持っています。繁忙期などで処理が増えても、ロボットを複製・追加することで短期間に処理能力を高められ、人員を増やさずに安定した体制を維持することが可能です。
さらに、自動処理によって人的ミスを防げるため、法令遵守や監査対応の精度向上にもつながります。処理ログを取得すれば、どの業務にどれだけ時間を要しているかを可視化でき、改善サイクルを継続的に回すことも可能です。
このように、RPAの導入は単なる効率化にとどまらず、業務プロセスの安定化や再現性の向上を通じて、組織全体の生産性を底上げする取り組みとなります。
RPA導入の注意点
RPAを導入する際は、個別の作業を自動化するだけでは効果が限定的になります。というのも、業務フロー全体を整理せずにロボットを作成すると、部門単位での効率化は進んでも、システム間の連携やデータ整合性に課題が残ることがあるためです。
また、RPAはあらかじめ定義された手順に従って動作するため、例外処理やイレギュラー対応には弱いという弱点があります。想定外の入力や仕様変更が発生すると、処理が停止するリスクもゼロではありません。
さらに、導入後にはライセンス費用や保守コストが発生します。運用を軌道に乗せるためには、継続的なメンテナンスと効果検証が不可欠です。
加えて、従業員の心理的抵抗にも注意が必要です。自動化によって自分の仕事が減る、または不要になるという不安から、RPAの導入に消極的になるケースもしばしばみられます。
RPAの具体的な活用例

RPAは、不動産業務の中で特に「繰り返し発生する定型作業」に高い効果を発揮します。ここでは、日々の現場で多くの担当者が時間を割いている業務を中心に、RPAがどのように活用されているのかを具体的にみていきましょう。
以下で紹介している物件情報の更新、問い合わせ対応、帳票作成などは、いずれも正確性とスピードが求められる業務です。それぞれの工程にRPAを組み込むことで、担当者の負担を軽減し、業務品質と顧客対応力の両面を向上させることが可能になります。
物件情報更新の自動化
物件情報の更新作業は、自社サイトや複数のポータルサイトに同じ内容を繰り返し入力するなど、手間と時間のかかる業務の1つです。媒体ごとに仕様や入力項目が異なるため、差分修正や再入力が発生しやすく、担当者の負担が大きくなりがちです。
RPAを活用すれば、社内システムに登録された最新データをもとに、複数媒体への自動反映が可能になります。これにより、更新作業の省力化と入力ミスの防止を両立し、常に正確で最新の情報を発信できるようになります。
さらに、『いい生活賃貸クラウド 物件広告』や『いい生活売買クラウド One』といった物件コンバーター(一括入稿システム)を組み合わせれば、より効率的な運用が可能です。主要ポータルサイトと連携しているため、入力項目やデータフォーマットの更新にも自動対応。出稿時の自動エラーチェック機能も備えており、人的ミスを防ぎながら作業負担の軽減にもつながります。
このように、RPAは幅広い業務の自動化に対応し、物件コンバーターは情報更新に特化して高い安定性と運用性を発揮します。目的や運用体制に合わせて両者を組み合わせることで、実務に即した自動化をより確実に進められるでしょう。
問い合わせ対応の効率化
顧客からの問い合わせは内容が多岐にわたり、確認や仕分けに時間を取られやすい業務です。担当者ごとに対応範囲が異なる場合は、割り振りや共有にも手間がかかり、対応が後手に回ってしまうことも少なくありません。
こうした課題に対して、RPAを導入すれば、受信した問い合わせを内容ごとに自動で分類し、適切な部署や担当者へ振り分けることができます。また、よく寄せられる質問をあらかじめ登録しておけば、定型的な内容に対して自動で返信を行うことも可能です。初期対応を自動化することで、担当者は急ぎの案件や複雑な対応に集中でき、結果的に全体の処理スピードが上がります。
さらに、夜間や休日など担当者が不在の時間帯でも自動応答を行えるため、問い合わせ対応の抜け漏れ防止や、機会損失の削減にもつながります。蓄積された対応履歴を分析し、処理ルールを定期的に見直すことで、RPAの精度を段階的に高めていくことも可能です。
帳票作成とレポート業務の自動化
帳票やレポートの作成は、オーナーへの報告に欠かせない重要な業務の1つです。しかし、複数のシステムからデータを収集し、ExcelやPDFへまとめる作業は手間がかかり、担当者の大きな負担となります。
RPAを導入すれば、基幹システムや管理ツールから必要なデータを自動で抽出し、あらかじめ設定したフォーマットに沿って帳票を生成可能です。これにより、作業時間を大幅に短縮できるだけでなく、集計ミスや記載漏れといったヒューマンエラーの防止にもつながります。
さらに、定期レポートの自動送付やグラフ生成を組み合わせれば、オーナーへの報告スピードが向上し、信頼関係の強化にも貢献するでしょう。担当者は分析や提案といった付加価値の高い業務に時間を割くことができ、オーナー満足度と業務品質の両方を高められます。
RPAの効果を最大化するためのポイント

RPAは、繰り返し発生する事務作業を自動で処理できるため、現場の負担を減らすうえで非常に有効な手段です。しかし、ツールを導入しただけでは、思ったような成果が得られないことも少なくありません。
その原因の多くは、データや業務フローが部署ごとに分かれ、システム同士がつながっていないことにあります。RPAが動作する基盤となる情報が統一されていなければ、自動化の範囲は一部の業務にとどまり、全体の効率化には結びつきません。
RPAの効果を本当に発揮させるには、まずデータや業務ルールを整理し、どの情報をどの順で扱うのかを明確にすることが重要です。そのうえで、既存のシステムやクラウドツールと連携させ、組織全体でデータを活用できる仕組みを整えることで、部分的な自動化から全体最適へと発展させることができます。
ここでは、不動産業務においてRPAを実践的に活かすためのポイントを具体的にみていきます。
データベースで情報を一元管理する
RPAを他の業務システムと連携せずに単体で運用すると、特定業務の自動化にとどまり、全体最適にはつながりにくいことが一般的です。
たとえば、契約・修繕・入金などのデータがシステムごとに分かれている場合、契約変更から請求、レポート作成といった一連の業務を連動させることはできません。各システムのデータを共通データベースに集約し、RPAがそのデータを基点に動作できる環境を整えることで、業務全体の自動化を実現できます。
この課題を解決するには、データを共通のプラットフォームに集約する仕組みが欠かせません。契約情報や修繕履歴、入出金データなどの基幹情報を共通データベースに集約し、クラウド上で一元管理することで、RPAが同じデータを参照して動作できるようになります。
賃貸管理システムとの連携を強化する
賃貸管理システムを業務の中核に据えることで、契約・修繕・入金といった基幹データを共通データベースで一元管理でき、RPAが参照するデータの整合性が保たれます。これにより、複数部門・複数拠点にまたがる業務の自動化がスムーズに進みます。
クラウド型賃貸管理サービスの『いい生活賃貸管理クラウド』は、契約・入金・請求・帳票といった一連のデータを横断的に連携させることができ、RPAの効果を最大限に引き出すための土台作りに有効です。
また、上でご紹介した『いい生活賃貸クラウド 物件広告』や『いい生活売買クラウド One』といった物件コンバーターともスムーズに連携できるため、情報更新から帳票作成までを一体化した自動化環境を構築できます。
業務フローを標準化する
RPAを効果的に運用するためには、データの一元管理に加えて、業務フローそのものを統一することが欠かせません。
まずは、現場担当者が実際に行っている手順を洗い出し、Excelや業務フローツールなどで可視化します。そのうえで、重複している工程や不要な承認を削除し、「誰が・いつ・どのデータを使って処理するか」を明確にしましょう。
次に、入力フォーマットや命名ルール、データ登録のタイミングなど、RPAが参照できる形でルールを統一します。完成したルールや手順は、手順書やチェックリストの形式で共有・教育し、担当者が誰でも同じ流れで処理できる状態にすることが大切です。
これにより、RPAのシナリオを安定的に構築できるだけでなく、担当変更時の引き継ぎや属人化防止にもつながります。
RPAと賃貸管理システムを連携させ、不動産業務の効率化を図ろう

RPAは不動産業務における入力・集計・報告などの定型作業を正確かつ迅速に処理し、人的ミスや残業を減らす効果があります。しかし、担当者ごとに手順が異なったり、入力元が分散したりしている状態では、自動化の範囲が限定され、部分的な効率化にとどまってしまいます。
まずは、契約・修繕・入金といった主要業務の流れを整理し、共通のルールやフォーマットを整備することが重要です。この業務標準化によって、RPAが参照するルールが統一され、シナリオ構築や運用の安定性が高まります。
そのうえで、データを集約し、賃貸管理システムと連携させることで、入金照合・帳票作成・ポータル更新といった一連の業務を一気通貫で自動化できます。
こうした全体最適化を実現するうえで、『いい生活賃貸管理クラウド』は有力な選択肢の1つです。日常業務を支える確かな基盤として、RPAとの連携による不動産DXの推進を後押ししてくれるはずです。
・執筆者

株式会社いい生活 マーケティング本部
マーケティング部
広報部
全国の不動産市場向けイベント、セミナーなどにて多数登壇、皆様のお役に立つ最新情報を発信しております。