
町内会は、清掃活動や防犯灯の設置、防災訓練や地域行事など、日常生活に直結する取り組みを支える地域住民による自主的な組織です。町内会に加入するかどうかは居住者の自由であり、会費の支払いは加入した場合にのみ発生します。
しかし、こうした任意性が十分に理解されていないと、賃貸管理の実務において誤解や混乱を招きやすくなります。とりわけ、契約書の記載が不十分であったり、共益費に含めて町内会費を徴収していたりすることで、入居者に「強制されている」といった誤解を与えかねません。
この記事では、町内会費の基本的な性質や誤解が生じやすい事例を整理し、賃貸管理実務で注意すべき点から町内会を退会退会する際の対応までを詳しく解説します。
町内会費とは?

賃貸住宅の入居時に、町内会費の取り扱いについて説明が必要となるケースがあります。町内会費は地域活動を支える重要な財源ですが、町内会費の支払いは任意のため、入居者との認識の違いがトラブルにつながることがあります。
ここでは、町内会費の役割と法的な位置づけを確認し、賃貸管理実務で押さえておくべきポイントを解説します。
町内会費は地域活動のための運営資金
町内会は、住民の生活環境を維持し、地域コミュニティを守る自治組織です。町内会費はそうした活動を支える運営資金であり、清掃、防犯、防災、祭事などの運用に充てられます。
ほかにも、ゴミ集積所の管理や高齢者支援、防犯灯の設置など、住民が安心して暮らせる環境づくりに欠かせない役割を果たしています。
町内会費の支払いは任意
町内会費は地域活動を支えるための資金です。しかし、憲法で保障された「結社の自由」に基づき、町内会への加入・不加入は個人の自由とされています。
そのため、賃貸借契約において、町内会への加入を条件とする条項を設けたとしても、退会を希望すれば効力が否定される可能性があります。また、管理会社が入居者から町内会費を徴収する場合には、会費の支払いが任意である点を明確に伝え、契約時に同意を得たうえで取り扱うことが欠かせません。
最高裁判決「町内会への加入は任意」
最高裁判所は、町内会への加入や活動への参加は、住民の自由意思に基づくものであるとしています。これまでの判決の中で、町内会への参加を強制することはできないことを繰り返し示しています。
特に2005年4月26日の最高裁判決(新座市県営住宅事件)では「町内会への加入は任意であり、退会も自由」と明確に示されました。
これにより、管理会社やオーナーが入居者に町内会加入を義務づけることは法的に認められないことが確立されています。
町内会や町内会費のよくある誤解

町内会費が共益費に組み込まれていると、入居者が「支払いを強制されている」と誤解してしまうことがあります。こうした説明不足による誤解や不透明な取り扱いが原因となり、トラブルに発展するリスクがあります。
ここでは、実際に誤解が生じやすい代表的なケースを取り上げ、その背景やリスクについて考えてみたいと思います。
共益費と混同され、町内会費の支払いが義務と誤解されたケース
入居者の中には「共益費を払う=町内会費も必ず負担しなければならない」と誤解されている方も少なくありません。
背景には、契約書や明細に町内会費の項目が明示されていないことがあります。また、共益費の内訳が明示されていないケースも同様です。本来は任意であるにもかかわらず、共益費に含まれる形になることで、入居者からは強制的に徴収されているように見えてしまうのです。
その結果、入居者が「知らないうちに町内会費を徴収されていた」と不信感を抱かせる可能性があります。町内会の退会や、これまでの支払い分の返金を求めたりするといったことに発展するケースなどが考えられます。
町内会未加入で生活面に支障が出ると心配されたケース
町内会に未加入だと「ゴミ捨てができなくなるのでは」と入居者が不安を抱くケースがあります。
実際には、町内会に加入していなくてもゴミ出しは可能ですが、町内会が所有する土地に設置されたゴミ収集所では、利用が制限される場合があります。
さらに、町内会に参加していないことで回覧板が回ってこず、地域行事や防災関連のお知らせなどの情報を受け取りにくくなることがあります。場合によっては、地域行事への参加が制限される、近隣住民との関係がぎくしゃくするといったリスクも考えられます。
このように、町内会未加入に関する不安材料は生活インフラだけでなく、情報共有や人間関係にもおよびます。管理会社が説明を怠ると、入居者の誤解や不信感につながりやすくなりますので、注意が必要です。
町内会費の取り扱いに関する賃貸管理実務のポイント

町内会費は、賃貸借契約書の書き方や説明不足によって「強制的に徴収されている」と誤解されるケースがあります。こうした誤解は、入居者の不満や返金要求、地域との関係悪化を招く可能性があります。
こういった事態を予防するためにも、賃貸管理の実務では契約条項の明確化、会計上の適切な処理など、入居者に対する丁寧な説明・対応が欠かせません。ここでは、町内会費の徴収にあたって、管理会社が注意すべき実務上のポイントについて整理します。
町内会費の支払いは「任意」であること契約書に明記する
町内会費の支払いについては、賃貸借契約書において「任意である」ことを明確に記載することが重要です。任意であることを曖昧にすると、町内会費の支払いが強制であるとの誤解を与えかねません。
賃貸借契約書には、特約や注意事項として以下の文言を盛り込むことが望ましいとされています。
- 本契約における町内会の加入は任意する
- 町内会費については、入居者が加入を希望する場合にのみ負担するものとする
- 加入を希望しない場合、町内会費の支払い義務は発生しない
町内会費を契約書に盛り込む場合は、入居者が「任意である」ことを理解し、同意したうえで負担する形にします。さらに、共益費や管理費と一括請求すると誤解を招きやすいため、契約書や重要事項説明書で項目を分けて明示することが重要です。
このように、任意性を契約書で明示しておくことで「強制された」「知らないうちに徴収されていた」といった誤解を防ぐことができます。
町内会費を特約とする場合の注意点
町内会費の任意性を契約書に記載する際、その書き方を誤ると「強制されている」と受け取られるだけでなく、法的に無効と判断されるリスクがあります。
特に「町内会費を支払わなければ契約解除」といった条項は、借地借家法第30条の強行規定に抵触する可能性があります。任意である町内会費の支払いを契約解除の条件とすることは、借主に不利益を一方的に強いるものとみなされるためです。
■推奨条項例
- 町内会への加入は任意とし、加入を希望する場合のみ会費を負担する
- 町内会費は入居者の同意がある場合に限り徴収する
■NG条項例
- 入居者は必ず町内会に加入し、会費を負担しなければならない
- 町内会費を支払わない場合、契約を解除できる
こうした条項は、町内会費を事実上の義務として扱っているため、強制条項とみなされるリスクが高くなります。
町内会費の徴収金は「預り金」として処理する
管理会社が入居者から町内会費を徴収し、町内会へ納付する場合、その金銭は「預り金」として処理する必要があります。町内会費を家賃や共益費と合算すると、入居者に「本当に町内会に渡っているのか」と疑念を与えてしまう可能性があります。
町内会費はオーナーの収益や経費とは無関係であり、あくまで入居者から一時的に預かった金銭であることを明確にしておく必要があります。仕訳上は「預り金」として区分し、納付記録や領収証を残して透明性を確保することが重要です。
入居者が町内会を退会する場合の対応

入居者から「町内会を退会したい」と相談を受けた場合、管理会社はどのように対応すべきでしょうか?
町内会は、自由に入退会できることが基本ですが、退会後のゴミ出しルールや地域との関係性など、実際にはさまざまなデメリットもあります。管理会社としては、入居者の意思を尊重しつつ、生活面への影響やトラブルのリスクを整理し、適切に説明・対応していくことが求められます。
ここでは、管理物件の入居者が町内会を退会する際に注意すべきポイントを解説します。
町内会は任意団体のため自由に退会できる
入居者が町内会を退会したいと希望した場合、町内会長や役員に口頭または書面で意思を伝えるだけで問題ありません。特別な手続きや承認は不要で、退会後に会費の支払い義務が残ることもありません。
ただし、これまで支払ってきた会費について「途中退会だから返金してほしい」といった要望が出るケースがあります。返金の可否や方法は町内会ごとの判断によるため、入居者と町内会の間で食い違いが生じやすいので注意が必要です。
管理会社としては、入居者から退会の相談があった際に、退会手続きの流れや返金可否について確認し、トラブル防止につなげることが重要です。また、退会によって地域行事や回覧板から外れる可能性があるなど、生活面への影響がありうることも中立的な立場で伝えておくようにしましょう。
退会後のゴミ出しルールを事前に確認する
退会後の懸念で特に多いのがゴミ集積所の利用に関する問題です。
実際には、自治体が設置・管理するゴミ集積所であれば、住民であれば誰でも利用することが可能です。一方で、地域によっては町内会が独自に管理するゴミ置き場を利用する慣習があり、町内会費で清掃や維持が賄われています。この場合は、利用が制限される可能性があります。
こういった確認を怠った場合、「使わせてもらえなかった」「利用時に注意された」などのクレームが入居者から入る可能性があります。そのため、対象物件のゴミ集積所の設置形態や、利用条件をあらかじめ把握し、入居者に説明することが求められます。特に以下の点を確認しておくと安心です。
- 設置場所が公道か、私有地・町内会管理地か
- 利用にあたって町内会費の支払いが必要か
- 分別ルールや収集日など、地域独自の運用が存在するか
これらを整理して伝えておけば、町内会の退会後も安心して生活できるだけでなく、近隣住民との摩擦も未然に防ぐことにもつながります。
退会トラブルには冷静に対応。必要に応じて専門機関への相談を促す
町内会を退会する際、「退会は認められない」と引き止められたり、近隣から無視や嫌がらせを受けるケースもあるようです。こうしたトラブルの際、管理会社が不用意に関与すると、入居者・地域との信頼関係を損なうだけでなく、法的リスクに発展するおそれもあります。
まずは町内会の入退会は自由であることを入居者に説明し、不安の解消を心がけましょう。そのうえで、退会の意思は口頭だけでなく書面で伝えること、やり取りの内容や日時を記録に残すことなど、具体的なアドバイスがあると安心につなげやすいです。
それでもなお、強い引き止めや嫌がらせなどが続く場合には、自治体の相談窓口などを案内することも一案です。さらに、強要や脅迫など違法行為にあたると判断される場合は、警察や弁護士など専門機関への相談を促しましょう。
町内会費の徴収トラブルを防止するためのポイント

町内会費の徴収に限ったことではありませんが、入居者への説明不足がトラブルにつながるケースは決して少なくありません。特に町内会費のような金銭に関わる事項は、敏感に受け止められるため、曖昧な説明は避ける必要があります。
また、口頭だけの説明では「聞いていない」「説明を受けた内容と違う」といった食い違いが生じることもあります。そのため、丁寧な説明に加えて、やり取りを記録に残しておくことが重要です。後に疑義が生じた場合、記録内容を客観的な根拠として提示することで、入居者の不信感を和らげることにつながります。
ただし、これらを紙の書類や担当者ごとの管理に頼っていると、記録が分散して共有しづらくなります。そこで有効なのが、賃貸管理業務全体を一元的に管理できるITツールの活用です。
クラウド型賃貸管理サービスの『いい生活賃貸管理クラウド』であれば、契約内容や費用項目をシステム上で明確に管理できます。オーナー・借主などの関係者を一元管理し、入居者への案内や対応履歴もクラウドに保存することが可能です。修繕対応や退去時の原状回復工事といった履歴も紐づけて残すことができるため、後から確認・説明する際に有効です。
さらに、入出金の処理も柔軟に対応可能です。町内会費のように「預り金」として管理すべき項目も他の経費や収益と混同せずに処理でき、経理処理の効率化と透明性の確保の実現が可能です。
町内会費対応のポイントを押さえてトラブルを防ごう

町内会費をめぐる誤解やトラブルは、説明不足や契約上の不明確さが原因で起こりやすいものです。契約書で任意性を明示し、入居者への丁寧な説明、徴収した町内会費の適切な処理を徹底することが重要です。
その際、賃貸管理システム『いい生活賃貸管理クラウド』などのITツールを活用すれば、契約や費用項目を一元管理し、対応履歴をシステムに残すことが可能です。属人的な対応を防ぎ、透明性を高めることで、トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。
町内会費の対応で大切なことは、曖昧さを残さない仕組みづくりです。会計処理を明確にし、説明と記録を徹底すれば、町内会費の支払いに関するトラブルを大幅に減らすことができるでしょう。
・執筆者

株式会社いい生活 マーケティング本部
マーケティング部
広報部
全国の不動産市場向けイベント、セミナーなどにて多数登壇、皆様のお役に立つ最新情報を発信しております。